「ママレボ通信」では、「ママレボ」の雑誌には掲載されなかった、日々の取材でのこぼれ話やレポートをアップしていく予定です。

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2014年7月18日金曜日

鎌仲ひとみ監督インタビュー 「子どもを守ろう、と動きだしたお母さんたちの存在は、絶望のなかの希望です」

間もなく完成予定の「小さき声のカノン」

8月発行予定の雑誌「ママレボ8号」から、ただいま
次作の「小さき声のカノン―選択する人々」を制作中の鎌仲ひとみ監督のインタビューを、先行してママレボブログで公開します! 
現在、鎌仲監督は、「モーションギャラリー」にて次作の制作費用のカンパを呼びかけていらっしゃいます。

インタビューをじっくり読んでいただいたあとは、ぜひカンパのご協力もよろしくお願いいたします!(カンパの詳細は末頁)


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原発事故前から、「ミツバチの羽音と地球の回転」など、被ばくや核の問題をテーマにドキュメンタリー映画を撮りつづけてきた鎌仲ひとみ監督。
原発事故前と現在で、どのように思いが変わったのか――。
まもなく完成予定の次作、「小さき声のカノン―選択する人々」の見どころと合わせて語っていただきました。

(『ママレボ』編集チーム・和田秀子)


■内部被ばくに苦しむイラクの子どもたち

 私自身が、被ばくや「核」について問題意識をもちはじめたのは、1988年にイラクを訪れてからのこと。
 当時私は、フリーランスとしてNHKのドキュメンタリー番組などを制作していたのですが、大手マスコミはイラクに関して、アメリカ側からの片寄った情報しか流していませんでした。

 ですから、みずからイラクへ行って、イラクの普通の人たちがどう考えているかを知りたかったのです。ちょうど、イラクの子どもたちに奇妙な病気がふえていて、薬が足りないということも耳にしていましたので、それも確かめたいと思っていました。

 初めてイラクを訪れたときは、すでに湾岸戦争から7年が過ぎていましたが、アメリカが撃った劣化ウラン弾が、戦場となった砂漠に落ちていて、日本から持って行った放射線測定器で劣化ウラン弾の近くを測ったら、3・8マイクロシーベルト毎時ありました。今から考えると、なんだか奇妙な符号みたいですよね。

 日本で原発事故が起きたあと、文部科学省は、福島県内の学校に対して、「校舎や校庭の空間線量が3・8マイクロシーベルト毎時以下なら使用してよい」という許可を出したのですから。 
 つまり福島の子どもたちは、劣化ウラン弾の上で学校生活を送らされていたようなものです。

 劣化ウラン弾がはじけると、その微粒子一つひとつがα線を出します。この微粒子は放射線は弱いけど、体内に少しでも取り込むと、いわゆる内部被ばくすることになり、がんをはじめ、さまざまな疾患をもたらすことは、当時すでにドイツのギュンター博士などが警告していました。

イラクを取材したことがキッカケでできた「ヒバクシャ」

 イラクの子どもたちは、湾岸戦争でアメリカによって撃ち込まれた劣化ウラン弾の粉じんを吸い込んで、内部被ばくしていました。そのせいで、白血病や骨がん、腎臓系の疾患などにかかる子どもがふえていて、経済制裁もあり、薬が足りなくなっていたのです。

 私自身もイラク滞在中、バグダッドで劣化ウラン弾の爆撃にあいました。そのとき、おそらく粉じんを吸い込んだのでしょうね。帰国後、かなり体調が悪化したのを覚えています。

 じつは私、イラクに行くまでは、広島・長崎のこともチェルノブイリ原発事故のことも、それほど関心がなかったんですよ。どこか他人ごとのように思っていました。
 でも、イラクの子どもたちの状況をまのあたりにし、また自分自身も内部被ばくしたことによって、被ばくや核のおそろしさを身をもって知りました。
 ちょうどみなさんが、3・11を機に「放射能は危ない」「原発はいらない」と気づいたように、私はイラクでそれに気づいたのです。それで、“核三部作”を作ろうと思いました。

 核兵器を使わなければそれでいい、という問題ではなくて、原発を動かしているかぎり核のゴミが出て、それが兵器に使われてしまいます。しかも、使用済みの核燃料を六ヶ所村で再処理すると、プルトニウムができてしまうのです。同時にたとえ原発事故が起きなくても、核兵器が使われなかったとしても、再処理するだけで膨大な放射能汚染が引き起こされてしまう。
 こうした現状を、なんとか多くの方に知っていただきたくて、作品を撮りつづけていました。


■3・11であらめて思い知った、原子力ムラの無責任さ

 そうこうしているうちに、日本で原発事故が起こってしまうわけですが、少しでも原発のことを学んだ人なら、「電源喪失=とり返しのつかない事態になる」ということはわかっています。 
ですから、津波の映像を見た瞬間、原発はたいへんなことになると思いました。

 でも、さすがに政府の対応が、ここまでひどいとは思わなかった。
 ニュースでは報道されていないだけで、少なくとも福島県内ではヨウ素剤が配られていると思っていましたし、SPEEDI(スピーディ・緊急時放射能影響予測ネットワークシステム)だって活用されているはずだと思っていました。

 チェルノブイリ原発事故のときは、当時のソビエト連邦政府ですら、事故から3日目には30キロ圏内の住民をすべて避難させていましたからね。

「六ヶ所村ラプソディー」などを撮影するなかで、日本の原子力ムラの人たちが、いかに住民を守るつもりがないかは気づいていましたが、さすがにここまでひどいとは……。

 一方で、隠ぺいすることだけは素早かった。事故直後、福島県に入って、子どもの甲状腺被ばくを測ろうとしていた学者もいましたが、そういう動きは、いち早く妨害しました。国民は守らないのに、事実を隠ぺいすることについては、これほど迅速に動くんだなと、ほんとうに驚きましたね。
 さらにショックだったのは、多くの人々が、心のなかでは政府や専門家の発表に疑問をもっているのに、「だいじょうぶなはずだ」と受け入れてしまったことです。
 厳しい事実を受け入れるということは、それほど困難なことなんですね。私は3・11前から、映画を通して核の脅威を伝えていましたが、100年かかったって、現状を動かすのはむりだったんじゃないかと、がくぜんとしました。


■お母さんたちの勇気ある行動や、声なき声を伝えたい

 そんな絶望のなかでも、希望はありました。
 それは、「子どもを守りたい」と動きだしたお母さんたちの存在です。

 政府が、「原発から出た放射能は安全だ」とアナウンスしましたから、それに抗うと、みんなに非難されたり、白い目で見られたりして、貧乏くじを引くことになりますよね。避難するにしたってたいへんですから、3・11以前のまま、政府のいうことを信じて、何ごともなかったかのように生きて行く人が大多数でした。

 そんななか、「これでは子どもを守れない」と行動を起こしはじめたのが、お母さんたちでした。
今まで、政府のやり方に対して疑問を感じたり、声をあげたりしたことがなかったお母さんたちが、避難したり保養に出かけたり、食品を測定したり、政治を変えようと立候補したり。

「小さき声のカノン」撮影風景
私はそんなお母さんたちの小さいけど勇気ある行動や、「声なき声」を拾いたくて、次作の「小さき声のカノン―選択する人々」(以下、カノン)を撮りはじめたのです。

 カノンでは、そんな彼女たちの様子を、福島だけでなく、東北、首都圏、そして避難先まで追いかけてとらえています。


 でも一方で、彼女たちは、いろんな勢力に足を引っ張られています。いったい何が、純粋に子どもを守りたいとがんばっている母親たちを阻んでいるのか――。
この映画をご覧いただければ、それも明らかになります。

 
 またカノンのなかでは、27年前に原発事故を経験したベラルーシのお母さんたちも登場します。
 彼女たちは、国もちがうし民族もちがうけれど、時間差で私たちと同じ「放射能汚染されてしまった世界」を生きてきた人たちです。

ベラルーシのおかあさんたちを取材
(c)森住卓
27年間、ベラルーシのお母さんたちが、どのように子どもたちを守り、どう生き抜いてきたのか。その生きざまは、3・11後の世界を生きる私たちにとって、大きなヒントになるはずです。
 そのほかにも、カノンを観ていただくと、日本政府がベラルーシと比べて、いかに子どもたちを守っていないかがわかります。

 まず、前提がちがうのです。ベラルーシ政府は、放射能のリスクは「ある」ことが前提。そのうえで、できるだけ被ばくを軽減するために、移住や保養、検診などさまざまな対策を立てています。
日本では、移住や保養はもちろんのこと、検診についても、まだ十分な仕組み作りができていません。それどころか、年間被ばく量20ミリシーベルト以下の地域には、住民を戻そうとしています。

ベラルーシの場合は、年間被ばく量5ミリシーベルト以上の地域は強制移住です。もし、こうした政策が必要ないなら、とっくに政策は廃止されているはずですが、原発事故から27年たった現在でも続けられているのです。
 現在のベラルーシの姿に、27年後の福島の未来を重ねながら、今何が必要なのかを考えていただけたらと思っています。

 最後に、こんなエピソードをひとつ。 
チェルノブイリ原発から約25キロのところに住んでいて、事故後、強制移住させられた女性のことばです。

「原発事故のあと、家も年金ももらって、暮らしはラクになった。でも、事故前は家族みんなが健康だった。もう一度、健康なころに戻れるなら、何を差し出してもいい」

 自分にとってほんとうにたいせつなことは何か、幸せとは何か、ということを、もう一度思い出すきっかけにしていただけるような映画に仕上げたいと思っています。
 応援よろしくお願いします!




「映画の制作資金を募っています!わずかずつでも、たくさんの方がカンパしてくだされば、
きっとこの映画が多くの方に届くと思います!よろしくお願いいたします!」by鎌仲監督
 
Profile
かまなか・ひとみ
映像作家。早稲田大学卒業と同時にドキュメンタリー映画制作の現場へ“核をめぐる三部作”と呼ばれる「ヒバクシャ ―世界の終わりに」「六ヶ所村ラプソディー」「ミツバチの羽音と地球の回転」などの核三部作は、国内外で高い評価を受けている。


モーションギャラリーにてカンパ受付中!>鎌仲ひとみ監督最新作「小さき声のカノン-選択する人々」製作費用と、全国での上映実現 のためにご協力ください!(クリックして詳細をご覧ください)





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2014年7月11日金曜日

「福島県民健康調査と体調に関するアンケート」ご協力のお願い


 このたび、一般社団法人子どもたちの健康と未来を守るプロジェクトと、私たちママレボ編集部は共同で、「福島県民健康調査と体調に関するアンケート」を実施させていただくことになりました。
 大変、お手数ではございますが、下記にあてはまる方で、ご協力いただけそうな方は、ぜひアンケートにご回答いただけますと幸いです。

 いただいた回答は、分析のうえ、ママレボの紙面やブログ等にて発表させていただくほか、県への改善要望として提出させていただくことがあるかもしれません。なお、個人情報は厳重に管理し、個人が特定できるような形での公表はいたしませんので、ご安心ください。



<アンケートにご協力いただきたい方>

・福島県に在住しており、県民健康調査の対象となっている18歳以下のお子さんをお持ちの方

・現在は避難しているが、原発事故当時、福島県に在住しており、県民健康調査の対象となっている18歳以下のお子さんをお持ちの方


アンケートは下記よりダウンロードしていただけます。

https://drive.google.com/file/d/0B6rm7ImoDKARci14ZFpMOGxEMDg/edit?usp=sharing


※なお、アンケート用紙と返信用封筒もご用意しておりますので、必要な方は下記メールアドレスまでご一報くださいませ。用紙と返信用封筒を送らせていただきます。


アンケートにご回答いただきましたら、2014830日までに下記いずれかにお送りくださいませ。

 mail: info.momsrevo@gmail.com /  FAX:  042-306-3665



 どうぞよろしくお願い申し上げます。


 なお、第二弾として北関東・首都圏にお住まいでお子さんをお持ちの方にもアンケートを実施させていただく予定です。


ママレボ@和田





2014年7月1日火曜日

傍聴レポート:「第6回住民の健康管理のあり方に関する専門家会議」

 原発事故に伴う住民の健康管理のあり方を問う、環境省の専門家会議が626日に開催されました。その様子を傍聴しましたので、レポートをお届けします。

(当日の資料は、こちらです)

6回目となるこの日の会議は、まずこれまで議論してきた「住民の被ばく線量把握・評価」のまとめについて骨子案が配布され、長瀧座長から、骨子の内容について異論がないかどうか確認がありました。
 骨子案の内容を、ものすごくざっくり要約すると、次のような内容になります。

「この専門家会議としては、平成233月下旬に飯舘村・川俣・いわきで子ども1080人に実施されたサーべーメーターによる甲状腺スクリーニングの実測値や、福島県民健康調査の基本調査による外部被ばく線量推計、およびホールボディカウンターによる内部被ばくの実測値等を主な判断材料とし、その他のシミュレーション値は、あくまでも捕捉として考えて、初期の内部・外部被ばくを評価した結果、個人個人のばらつきはあるものの、福島県内外ともに、たしたことはない」

この結論を導き出すために、延々と5回にわたって議論を続けていたかと思うと、残念でなりません。当然、いまさら大きな異論が出ることもなく、この検討委員会のひとつの結論として示されることになりそうです。


■検診は不要? 石川委員の提案を一蹴

 続いてこの日は、石川広己委員(日本医師会理事長)から、「日本医師会が考える重要施策」と題した、具体的な健康支援に対する提案がなされました。



 これは、第一回の専門家会議でも提案されていたのですが、まずは線量評価を……ということで、ずっと保留にされていたのです。

(第一回傍聴レポートはこちら http://momsrevo.blogspot.jp/2013/11/blog-post.html

「日本医師会が考える重要施策」の柱を、ざっくり説明すると以下の通りです。

☆福島県内のみでなく、千葉や茨城などのホットスポットにおいても検診を行う。
☆学齢期だけではなく、成人も検診の対象とし、その項目についても「被ばく者援護法」に規定されている、広島・長崎の原爆被爆者の検診内容を参考にして決める。
☆万が一疾病にかかった場合には、国が責任を持って医療補償を行う。
☆差別などが起きないように、子どもたちに対して正しい放射線と健康影響の教育を行う。

 石川議員は、この提案を行うに先立ち、平成24630日に成立した子ども被災者・支援法に言及し、「支援法で定められた文言の中には、私たち医師会が提案している内容と共通する点が多い」と強調。とくに、現在検診が行われていない千葉や茨城などのホットスポットエリアで検診の要望が多いことにふれ、「千葉県の9市からは、検診などを求める要望書が上がっている。国の支援がないとできない」と、強く訴えました。



しかしこれに対して、委員の中からは次のような趣旨の反論が上がりました。


「住民の健康不安に対して、検診をするということがベストアンサーなのか、議論が必要だ。お母さん方と話していると、いまだに水道水が飲めないという。ほんとうの意味でのリスクリテラシーが必要。医療という形で答えを出すのは落とし穴があると思う」
鈴木 元委員(国際医療福祉大学)


「私は福島に暮らしており、個人線量計をつけて測定してみたところ、ガンマ線から受ける年間追加被ばく線量は1ミリシーベルトくらいだということがわかった。東京ではどうかというと0.6ミリシーベルトくらい。広島などに行くと、あそこは花崗岩だから0.9ミリシーベルトくらい。実際に測定してみると、福島県の追加被ばく線量はそれほどでもないということがわかる。だから、まず自分自身で個人線量を知ることが大事」
丹羽 太貫委員(福島県立医科大学理事長付特命教授)

これに対して石川委員は、
「個人線量を測るということも大事だが、全住民に個人積算線量計を持たせるのは無理がある。ほんとうに専門家の立場で絶対にだいじょうぶだと言えるのか。また専門家がだいじょうぶだと言えば、みなさん安心するのか?そうではないはずだ。住民が安心しないかぎり、検診や補償体制を整えて見守っていくしかないのではないか」といった趣旨の反論をしました。

 さらに丹羽委員は、
「たしかに、『このくらいの線量ならばだいじょうぶ』と、専門家のモノサシで物を言ってしまったから、我々は信頼をなくしてしまった」と、少し理解を示したものの、「今の状況では、風邪をひいても放射能のせいではないかと思うだろう。ましてや小児ガンにかかったりしたらなおさらだ。それが親心というものだ。だからこそ、個人線量計で測ってもらい、自分たちの周辺状況を把握することで、理解してもらうのが重要」として、検診の必要性をやんわりと否定。結局は、自分のモノサシを押しつけていました。

 そしていつも通り長瀧座長が、「住民の気持ちや行政の問題などいろいろあるだろうが、この会議では、専門家として、どう科学的に考えるかということを話し合いたい。住民が心配しているから検査をすると言うが、検査にはメリットもデメリットもある」と述べて、この日、『がん検診の利益と不利益』について発表する予定の祖父江友孝委員(大阪大学大学院医学系研究科 環境医学 教授)にバトンタッチしました。


■ 検診のメリット・デメリット

 祖父江委員は、アメリカでの前立腺がん検査(PSA検査)や、韓国での甲状腺エコー検査などの事例を挙げつつ、検診をすることでのメリット・デメリットを説明しました。

検診のメリットとしては、
☆がんの死亡率や罹患率を減らせる。

デメリットとしては、
☆擬陽性・擬陰性などのように間違って判断されてしまった場合に不利益が生じる
☆検査にともなう合併症が起きる可能性がある
☆高齢者の場合、がん検診をしてがんが見つかった場合でも、治療をしなくても寿命に影響を及ぼさない場合もあるのに、過剰診療をする可能性がある
等が挙げられました。

そのうえで祖父江委員は、「ゆっくり進行するがんに関しては、過剰診断の不利益が大きい。放射線被ばくによる健康管理のために検診をするのであれば、品目を多くすればいいということではなくて、利益・不利益のバランスを考慮して、検査項目や頻度を考えることが大事」と結論付けました。

 これに対して、春日文子委員(日本学術会議 副会長)からは、「過剰診療などの不利益があるということはよくわかったが、がんの種類によっても、ちがうのではないか」と質問が出ました。

 祖父江委員は、「前立腺がんは高齢者に多いので寿命の問題と近接している。甲状腺がんはそこがちょっと違うので、前立腺がんのケースをそのまま適用するわけにはいかない」といった趣旨の発言をし、がんの種類によって検診のメリット・デメリットを一概には語れないことも認めました。

 もちろん、検診によるデメリットがあることは否めませんが、そもそも今回の検診は、チェルノブイリ原発事故のあと、子どもに甲状腺がんが多発したことを受けて実施しているのですから、一般的な検診と比較すること自体がナンセンスだという気がします。
 それに、がん検診についてばかり議論されて、血液検査などの是非については、まったく触れられませんでした。

 祖父江委員からの発表を受け、長瀧座長は以下のようにコメントしました。

「検診に対して、プラスもあるがマイナスもあるということを共有することが必要。私は医者になって50数年たつ。最初のころは早くがんを見つけることが100%良いことだと考えられていたが、世の中が進化してきて早く診断できるようになると、がんの種類やそのほかのことを考えると、すべて早く検診したほうがよいとはかぎらないということがわかった。考慮したうえで行動しなくてはいけない」

 そして、鈴木元委員が次のように捕捉。

「放射線とは関係ないであろう心理的な要因に関して実態を把握し、対策をとっていくべき。むしろそっちのほうが大きい問題」

さらに、長瀧座長は、UNSCEARですら、現実の(被ばく)影響はなかったが避難させたために何十人も亡くなったとレポートで述べている。たんに放射線が怖いから検査をやりましょうというのと、放射線のリスクはないんだけども心配があるからやりましょうというのでは科学的な議論がちがう。もう一度、このUNSCEARの報告を委員会の共通認識としていいのかどうか、議論があればしていただきたい」
 と述べるなど、検診の必要性を遠回しに、しかしハッキリと否定しました。

 つまり端的に言うと、「検診はデメリットのほうが大きい。放射線のリスクは少ないのだから、むやみに怖がらないよう住民に説明することが大事」ということなんでしょう。
 福島県では、子どもの甲状腺がんが疑いも含めて90人も出ているのに、心配するなというほうが無理なのです。


 ■子ども・被災者支援法が成立したときとは状況がちがう?

 こうした発言に対して石川委員は、子ども被災者支援法の条文を読み上げ、「支援法には、放射線量が一定の基準以上である地域で生活する被災者を支援するため、医療の確保に関する施策等を行わなければならない、と明記されている。よって、千葉の松戸市などホットスポットと呼ばれるエリアの検診についても、この会議で議論してほしい」という趣旨の発言をしました。

 しかし、これに対する長瀧委員の答えは、驚くべきものでした。

なんと、「この法律ができたときと今とでは、線量の評価がまったく異なる。以前は、線量の評価がなかったが、今は線量の評価がどんどん出てきた。リスクに対しても科学的にモノが言えるようになったという点は大きなちがい。今の段階で、科学的な知識にもとづいて、日本の専門家としてどう対応するかということは、我々の大きな責任だと思う」
と答えたのです。

 つまり、簡潔に言うと、「法律なんて関係ない」ということ。

そもそも、第一回の傍聴レポートでも書きましたが、この専門家会議は、子ども被災者支援法の基本方針に基づいて開かれたもので、福島県をはじめ、近隣県の子どもや妊婦に対する放射線の健康影響を専門家らが協議し、今後の健康管理のあり方や、医療に関する施策を検討するために開かれているものです。それなのに、なぜ座長の権限だけで、これほどまでに法律を無視できるんでしょうか?

 さらに、いつも長瀧座長に追随する発言を繰り返している鈴木委員も、「東海村のJCO事故のあと、今でも周辺村民の検診をやっているものだから、被ばく量は少なかったのに、村民たちの多くは放射線によってがんがふえると信じている。かえって健康不安を増長させている」と述べ、検診のデメリットを強調。検診不要論を後押ししました。

 もちろん、検診にはデメリットもあると思います。しかし、被ばくしたという不安がある以上、検診のデメリットもていねいに説明しつつ、被害者の方々が納得できる形を模索するのが筋でしょう。

 このように一方的に、上から目線の専門家会議を延々と開いていても、信頼回復どころか、ますます不信感が募るばかりです。

 いますぐ解散してメンバーを改め、いちから議論しなおしてほしいところですが、次回の専門家会議には、甲状腺がん多発を訴えている津田敏秀氏(岡山大学大学院環境学研究科教授)が有識者として招致されるようなので、見守りたいと思います。

 次回は、7月16日開催予定です。

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このレポートは、あくまでも私個人の主観にもとづいて書いております。OurPlanetTVさんがアーカイブをアップされていますので、詳しくはこちらをご覧ください。