「ママレボ通信」では、「ママレボ」の雑誌には掲載されなかった、日々の取材でのこぼれ話やレポートをアップしていく予定です。

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2015年1月31日土曜日

放射能と薪の話(1)――知らされざる薪の汚染

◆そのペレット、測ってますか?

126日、福島県郡山市役所がペレットストーブを設置した、という報道がありました。ファンヒーターより暖かく、燃焼効率も良いためとのことです。


このところ、福島県の薪や原木の測定結果が公表されていないということを知り、取材をしていた記者としては、「そのペレットは、測定しているのだろうか」と気になりました。
2013(平成25)年3月、秋田県で使用された、外国産の木質ペレットの焼却灰から、チェルノブイリ原発事故によるものと推察される、放射性セシウムが検出されています。使用された木質ペレットは、ヨーロッパアカマツを原料とした外国産のペレットでした。
秋田県は、その測定値を検証した結果、放射性セシウム134137の比率から、「チェルノブイリ原発事故のもの」と推察し、測定結果とあわせて発表しています。
チェルノブイリ原発事故から29年がたついまも、とくに気を付けて測定しなくてはならない品目があるということを、あらためて考えさせられる例です。
福島原発事故からはまだ4年――。薪・材木の放射能汚染について、数回にわけてレポートします。

(ママレボ出版局/吉田千亜)


◆小さな原子炉―薪ストーブの灰が指定廃棄物レベルに

 チェルノブイリ原発事故のあと、薪ストーブはベラルーシで「小さな原子炉」と呼ばれました。汚染された薪を使用することによって汚染が広がってしまうということから、そういわれていたようです。
 福島原発事故でも同じように認識されており、「薪は40ベクレル/kg以下のものを使用するように」と、震災から半年後の201111月に、林野庁から通知が出ています。
 林野庁がわざわざ「薪は40ベクレル/kg以下」というのには理由があります。薪を燃やしたあとの灰に放射性セシウムが濃縮され、指定廃棄物として管理しなくてはならない8000ベクレル/kgを超えてしまうからです。燃焼により、およそ200倍になるといわれています。
灰に放射性セシウムが濃縮されることは、環境省が2012(平成24)年2月に発表した、実証実験のデータからも見てとれます。


◆公開されない「薪」と「原木」の放射能測定データ

ごく最近の、薪はどのくらいの数値なのか、ウェブで薪の測定データを検索してみました。しかし、公開されている放射能測定データのなかに、「薪」や「原木」のものが見あたりません。
 福島県の林業推進課に問い合わせをすると、「測定はしているが、公表していない」といいます。「公表する予定もない」らしいのです。
細かくしやすい食材などの放射能測定はできても、粉砕できない木材の放射能測定をすることは住民にとってむずかしいことです。せっかく測定しているにもかかわらず、なぜ公表していないのでしょうか。

◆現在も40ベクレル/kgを超える薪がある――開示請求した薪のデータから

 公表しない、というので、2014(平成26)年12月、薪と原木の測定値を開示請求しました。
 出てきたデータには、「規制値以上」という数値がいくつも並んでいました。


最近の――2014(平成26)年11月のデータですら、40ベクレル/kgを大きく超える、8500ベクレル/kg、3000ベクレル/kgという数値があるのです。


◆安心して使えるものが出荷されているのか――

 福島県庁に電話をし、現在、薪の出荷についてどういう規制がされているのか、あらためて聞いてみました。林業振興課によると、

「林野庁から薪の安全確保の方針が出ているが、規制する法的根拠がない。『出荷しないで』という『お願い』をしているという状況。食品であれば、食品衛生法の規定があるが、薪についてはない」

と話します。
震災直後から現在まで、福島県の薪の測定検体数は約300。そもそも測定じたい義務ではなく、任意です。「業者には、1ロット収穫の場所単位で測定にまわしてほしいとお願いしている」とのこと。
自家消費する方々については、

「市町村を通して、回覧板などで周知しているところ」

とのことでした。「周知しているところ」とはいっても、もうすでに震災から4年ちかくがたっているのです。


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◆薪ストーブの近くで16マイクロシーベルト/hもあった

 郡山市に住むNさんは20113月の地震のあと、灯油などが買えない時期に、「薪ストーブがあってよかった」と、喜んでいたといいます。それまでも、家の外の薪置き場で乾燥させた薪を使用していたので、震災直後も同じように使っていたそうです。当時は、放射能に関する知識もありませんでした。
 ある日、福島県に住む知人から「自宅の薪ストーブの灰の数値が1キログラムあたり1万ベクレルを超えた」という話を聞いて驚き、すぐに自宅の薪ストーブの近くで放射線量を測定してみたそうです。使いつづけていた薪ストーブの灰の近くは、16マイクロシーベルト/hありました。20116月のことです。

◆「薪を洗って使ったらどうですか?」

 Nさんは、16マイクロシーベルト/hという高い線量に驚き、郡山市の市役所に出向いて訴えました。自分たちは、室内で、無用な被ばくをしているのではないか。灰を処理するとき、危険ではないのか。薪ストーブを使用禁止にしなくてもいいのか――。
 Nさんの問いに対して、市の職員は

「そんな話は聞いたことがありません」

と、とりつく島もありませんでした。
Nさんは、めげずに東京電力にも問い合わせの電話をします。すると、窓口の職員は

「前例がないのでわからない」

と説明したあとに、こう言ったそうです。

「薪を洗って使ったらどうですか?」

「さすがに絶句しました」と、Nさん。
それらの薪は、今も使えないまま自宅敷地内に残しています。





放射能と薪のお話――棄てることもできない(2)に続く


2015年1月17日土曜日

ママレボ9号(2015 年始特大号)リリースのお知らせ

大変遅れてしまったのですが、「ママレボ9号(2015 年始特大号)」リリースいたしました!

→ご購入のお手続きはこちらから



なお、現在、印刷中ですので、発送は1月25日以降となります。
サポーターの皆さまには、1月25日以降に順次発送させていただきますので、いましばらくお待ちくださいませ。

→デジタル版は、下記よりいますぐご購入していただけます。
http://www.dlmarket.jp/products/detail/294459


ちなみに今号は、年始特大号ということで、いつもより大幅にボーリュームアップしてお届けしています。
そのため、通常は定価400円ですが、今号のみ特大号ということで定価500円となっております。 ご理解いただけますようお願い申し上げます。

そのかわり、特集は永久保存版ともいえる充実した内容ですので、ぜひ、お読みいただけますと幸いです。
制作にご協力いただきました皆さまにも、この場を借りて御礼申し上げます!

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ママレボ9号(2015 年始特大号)
Interview after 3.11❖松阪市長・ 山中光茂さん
「あたり前の幸せ」を守りたい

特集1
「福島県民健康調査」の問題点を大解剖
~どうすれば、子どもの健康を守れるか~
私たちがみなさんの疑問に答えます
藍原寛子さん(医療ジャーナリスト)・菅谷昭さん(甲状腺専門医・松本市長)・津田敏秀さん(岡山大学大学院教授)

特集2
国は誰を「避難者」としているのか
~避難住宅問題で追いつめられる自主避難者~

この人に聞く❖流通経済大学法学部准教授 尾内隆之先生
「政治」と「生活」をつなげる力――考えはじめるための〈実感〉

教えて! ママレボ博士 
ここがヘンだよ、環境省の専門家会議

子どものために知っておきたい憲法のこと
「秘密保護法」って何?私たちに何か関係があるの?

みんなの取り組み地域の活動 
ふくしまキッズハワイ ❖共同代表 きくちゆみさん

あなたの町の市民測定所
NPO法人新宿代々木市民測定所 ❖代表 桑野博之さん

ママレボからおすすめの本

放射能に負けないレシピ

風邪予防、冷え性改善にんじんレシピ3種

みんなの声

Come back home❖都築啓子

ネットワーク団体一覧

福島で被災した動物たちの里親募集

2015年1月7日水曜日

関東の子どもたちにも甲状腺検査を! ~ボランティアで甲状腺検査を続ける野宗先生インタビュー~



野宗義博先生
 ベラルーシやウクライナ、カザフスタンなどで、20年以上にわたり被ばく者検診を続けてきた野宗義博先生(島根大学・医学部総合医療学講座 外科教授)。
福島第一原子力発電所の事故以降は、福島や関東で、市民団体が実施している子どもの甲状腺検査にボランティアで協力しておられます。
そんな野宗先生に、被ばくの影響が心配されてる子どもの甲状腺がんについて、おうかがいしました。



Q まず、関東の子どもたちの状況についてお聞きします。先日、NHKの報道で、「関東子ども健康調査支援基金」(茨城や千葉など、ホットスポットの保護者が作った市民団体)が実施した甲状腺検査で、以下のような結果が出たと発表がありました。先生は、実際に検査を行っていらっしゃるそうですが、この数字をどう受け止めたらよいのでしょうか。」


※この「正常」とは、「のう胞・結節なし」を指します。
この表記は、「甲状腺超音波診断ガイドブック改定第2版(2012年4月発行)の、超音波診断ガイドライン」を一つの基準にしています。

野宗:今のところ関東の子どもたちに、甲状腺に特別な健康被害が発生している様子は見られません。みなさまが心配されているような明らかな健康被害はおきていませんから、ひとまず安心してもらってもよいと思います。
 しかし関東には、事故直後、放射性プルームの影響がおきており、また、福島原発事故現場からの低濃度の汚染は今も持続しています。甲状腺がんの発症には、放射性ヨウ素による初期被ばくが大きく関係していますが、低濃度の持続汚染地域に住むことが、今後、甲状腺がんの発症に何らかの影響を及ぼさないとは言い切れません。今回の福島原発事故は、これまでの原発事故とは別質のものであり、人類にとってはじめての経験ですから、現段階では今後影響が全く起こらないとは誰も言えないのです。
 また、「被ばくをしているのではないか」という精神的なストレスや、避難などによって生活環境を変えたことによる精神的なストレスなども、がんを引き起こす誘因になることもあります。人のがんは種々の複合的な要因で発生すると言われています。ですから、現在、子どもたちに被ばくによる健康被害がないからといって、決して安心はできません。
 
Q しかし、環境省の『東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う住民の健康管理のあり方に関する専門家会議』では、「北関東は、福島に比べて初期被ばくは少ないし、甲状腺がんは、手術しなくても生命に影響を及ぼさないことが多い。子どもたちが甲状腺検査を受ける負担を考えると、デメリットのほうが大きいので、今のところ検診する必要はない」といった結論が出ていました。
その結果、茨城や千葉、群馬など、汚染環境重点調査地域の子どもたちは、国や県による甲状腺検査を実施してもらえなくなりそうです。これについて、どう思われますか?

野宗:その意見には反対です。だったら、一般的に行われている乳がんや胃がんなどの検診に関しても行わなくてよいということになります。
 たしかに多くの甲状腺がんは、乳がんや胃がんに比べて悪性度は低く、再発転移もまれで、比較的治療後の経過がよいとされています。
しかしながら、なかには不幸にも、がんが再発転移して、何度も手術をすることになったり、生命を脅かされたりする患者さんも存在します。
 一般的に、がんという病気は、その人の生命を脅かす厄介な病気なので、正しく治療しなければ命を奪われることもあります。また、この厄介ながんは初期にはほとんど症状がありません。がんが大きくなって周りの臓器に波及してはじめて種々の症状が現れてきます。ですから早期がんを見つけるためには、平生から定期的な健康診断を受ける必要があります。また、がんの予防方法は現在見つかっていません。
 だからこそ、少しでも健康被害の心配がある方には、いつでも検査を受けられる体制を整えてあげることが重要です。検査を受けて、それで異常が見つからなければ、本当に安心できますね。
「被ばく線量が低いので、医学的に発がんの危険は極めて少ないので、気にしなくてもよいし、検査なんて受ける必要はない」と言って慰めてあげるのも一つの方法かもしれませんが、悩んでいる方、心配している方にきちんと向き合い、検診を行ってあげるのも医療従事者の務めではないでしょうか。

Q 次に、福島の子どもたちについておうかがいします。福島県で実施されている子どもの甲状腺検査では、すでに103人の子どもが、「悪性ないし悪性疑い」ということになっています。(平成26630日段階)この数を、どう捉えていらっしゃいますか。

野宗:通常、がん細胞が3年以内に1~2センチに成長するということは考えにくいので、おそらく、原発事故後比較的早期に見つかっている甲状腺がんについては、ほとんどが事故前から存在していたのではないかと考えられます。ただ、現段階では、「すでに存在していた甲状腺がんに対して、今回の被ばくの影響が全くない」とは言い切れません。何らかの放射線被ばくの影響がないかどうかを、詳細に調査を進めていく必要があります。

Q 現在、見つかっている子どもの甲状腺がんについて、「手術は過剰診療ではないか」とい言う専門家もいます。保護者は混乱していると思うのですが。

野宗:手術しなくてよいという専門家もいますが、それは「すぐに手術をしなくてもいい」ということであって、ほうっておけばいいということではありません。
 私自身は、がん治療とは、早期発見、そして、早期治療が重要と思っています。どうせいつかはがんの手術をする必要があれば、いつまでも放置しないで、早くしたほうが病気の進行も少ないですし、傷も小さくてすみます。また、リンパ節を切除する範囲も小さくてすみますから、手術後の影響も少ないはずです。また、ご本人やご家族の気持ちを考えると、がんを抱えて何か月も暮らすというのは精神的にもよくありませんね。誰でも、がんが見つかれば、早く手術をしてあげ、少しでも早く元の生活を取り戻せたほうがよいと思います。

Q 先生は、福島や関東で、子どもの甲状腺検査をしておられますが、保護者からどんな質問を受けることが多いですか。

野宗:一番多いのは、嚢胞(のうほう)に関する質問ですね。「子どもにたくさん嚢胞が見つかったのだが、被ばくによるものだろうか」とか、「今後、どれくらいの頻度で検診を受けたほうがいいのか」といった内容です。
 先ほど申し上げたように、現段階では被ばくの影響かどうかはわかりません。だからといって、影響がないとも言い切れません。前例がないので、検査は定期的に受けたほうがよいとお話ししています。
 また先日は、福島の方から、「子どもに甲状腺がんが見つかってしまったが、なかなか手術をしてもらえない。早く手術をしてほしいのだが、病院側が対応してくれない」という相談も受けました。
 「島根大学に来てもらえれば、いつでも手術できますよ」とお答えしましたが、経済的にも距離的にも負担がかかりますので、できることなら福島県内で手術を受けられるのが望ましいですね。また、近くの医師にセカンドオピニオンを受けられるとよいですね。より一層、病気への理解が深まります。

Q しかし、福島県内では、セカンドオピニオンを受けづらいという話も聞きます。そういう場合、どうしたらよいでしょうか。

野宗:県外に避難された方は自由に診療を受けておられます。どうしても、福島県内でセカンドオピニオンを受けづらいのでしたら、関東や東北など、それほど負担なく行ける近隣の県で、専門医の診察を受けてみるのもよいと思います。よい医療機関はたくさんありますからね。
 福島からは少し遠いですが、近くに出雲大社のある島根大学でも、甲状腺に関する診療を受けていただくことはできます。
 今後も、医療従事者として、住民のみなさまに対してきちんと向かいあって、できるだけのことをしていきたいと思っています。


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≪パブコメを書こう!≫
ママレボでも傍聴レポートをお送りしてきた環境省の「東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う住民の健康管理のあり方に関する専門家会議」。
12月25日に最終の会議が開かれ、とうとう「専門家」による、中間取りまとめが発表されてしまいました。
その内容は、「関東の子どもたちには当面、検診は必要なく、福島県内についても、疫学調査として充実させていく必要はあるが、
被ばく線量の低い地域の検診については今後見直しが必要」といった縮小に傾く内容でした。

 中間とりまとめ内容はこちら→ http://www.env.go.jp/press/files/jp/25691.pdf


環境省は、この専門家によるとりまとめを受けて、「当面の施策の方向性(案)」という発表を行いました。

この案によると、関東のホットスポットの子どもたちの健康リスクはまったく無視し
あくまでも、「被ばくは少ないから問題ない」ということを刷り込む “リスクコミュニケーション”のみに力を注ぐという趣旨のことが書かれています。

環境省は現在、当面の施策の方向性(案)」についてのパブリックコメントを募集しています。
野宗先生のご意見も参考にしつつ、ぜひ、これについて、みなさまのご意見を下記から送っていただければと存じます。