「ママレボ通信」では、「ママレボ」の雑誌には掲載されなかった、日々の取材でのこぼれ話やレポートをアップしていく予定です。

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2014年1月28日火曜日

「原発事故区域外避難者(自主的避難者)無料相談ウィーク」:東京都


避難区域外(自主避難区域)の方も、賠償請求ができることをご存知でしょうか。

「賠償は避難指示区域だけ」と思っている方もいらっしゃるようですが、そうではなく、避難区域外(自主避難区域)の方も、原子力紛争解決センターでADR申し立てができます。

避難区域外の、一律の精神的賠償は2012年8月で打ち切られてしまいました。実際にかかった避難費用、新しく生活を立て直すための出費、自宅の除染費用を考えると、東電が勝手に決めた金額ではまったく不十分であるのが現状です。

原発事故がなければ必要なかった費用の、せめて何割かでも取り戻すために、避難区域外の方も、ADRの申し立てを行い、賠償金を勝ち取っています。

申し立ては、個人でもできますが、手間がかかり大変なケースが多いのだとか。というのも、個人申し立ては、申請内容の正当性を判断するための提出物の量が、膨大になるというのです。
そこまでやるのは大変・・・という場合は、弁護士に委任することもできます。弁護士に委任すると、ADR仲介員との煩雑な手続きも、簡略化される傾向があるそうです(「弁護士だから」という信頼性によるものもあるとか)。
ただし、弁護士費用がかかってしまいます。費用(着手金・報酬)は弁護士・地域等によって違うようなので、確認してみてください。

また、文部科学省のホームページ上で、和解事例がいくつも公表されています。その事例の件名に避難元の地名も含まれているので、ぜひ参考にしてみてください。

* * * 

来月(2014年2月)の3日(月)~7日(金)の午前10時~午後8時、東京弁護士会・第一東京弁護士会・第二東京弁護士会が主催となり、

「原発事故区域外避難者(自主的避難者)無料相談ウィーク」

 
が開催されます。
東京都内の各法律事務所にて、1枠1時間の相談を無料で受けることができます。場所や時間については、ご予約の時にご希望を聴い決定するとのことです。
ご予約は受付先着順とのことですので、お早めにご連絡ください。

詳細はこちらから。






予約電話番号 03-3595-8575
受付時間 平日9時~16時














2014年1月21日火曜日

ママレボ編集長通信No9 ~1 月 26 日は、伊達市長選挙!~ 「市民を被ばくから守る」が争点になるか!?

~「ママレボ編集長通信」について~


「ママレボ編集長通信」は、このブログだけでなく、PDF版でも発信しています。
なぜPDF版を作成しているかというと、「インターネットを見ない方」にも、プリントアウトして配付していただけたら……と考えているからです。
 プリンターで“両面印刷”を選択してプリントアウトしていただくと、A4裏表1枚におさまるようにしています。
 ぜひ、「ママレボ編集長通信」をダウンロードしていただき、お知り合いに配付してくださいね!
(すみませんが、編集に手間がかかるため、PDF版は有料にさせていただくことにしました。ご理解いただけると幸いです)

 「ママレボ編集長通信No9」のダウンロードは、こちらから。




*****

「ママレボ編集長通信No9」のブログ版は下記でも、無料でお読みいただけます

 年明け早々、全国各地で重要な市長選が実施されています。原発事故から丸3年を迎える福島県でも、1月19日には南相馬市で市長選があり、脱原発を訴える現職の桜井市長が再選されました。きたる26日は伊達市長選の投票日。福島県内で今年度行われている市長選挙では、福島市、郡山市、いわき市など、7市町で軒並み現職が落選しています。伊達市はどうなるでしょうか。
 伊達市長選には4人が立候補していますが、有力なのは、JAや地元企業から支持されている現職の仁志田昇司氏(69)と、新人の高橋一由氏(61)だと見られています。そこで、伊達市で子育て中の母親や、地元の市議に、伊達市政について思うことなどをお聞きしました。


* * * * * * * * * 

■子どもを避難させてほしかった

 「伊達市の対応にはいろいろ不満がありますが、やはり事故直後、なぜ子どもたちだけでも避難させてくれなかったのかと思います。他の市は、入学式や始業式を1か月遅らせたのに、伊達市だけは『人体に影響の出るレベルではない』と言って、通常どおりに学校を始めました。子どもたちは高い放射線量のなか、マスクもしないで普通に登校していました」と、仁志田市政を批判するのは、上野和恵さん(仮名)。小学生と幼稚園の子どもをもつ、3児の母親だ。
 上野さんの自宅は、伊達市霊山町小国地区にある。政府は「年間被ばく量が、20ミリシーベルトを超えるおそれがある」として、2011年6月30日に、上野さん宅を含め、小国地区やその他エリアの113世帯を「特定避難勧奨地点」に指定(2012年12月末に突然解除)。これにより、上野さんは夫と子どもといっしょに、市内の比較的放射線量が低い梁川町に避難した。





 しかし、特定避難勧奨地点の指定方法が「地域ごと」ではなく、「世帯ごと」だったため、上野さんの子どもが通っていた小国小学校では、全校生徒57人のうち20人の世帯しか特定避難勧奨地点に指定されなかった。

 住民のなかからは、「地域単位で指定してほしい」「子どもがいる家庭だけでも全戸指定したらどうか」「政府がやらないなら市が独自で取り込むべきだ」といった声も上がっていたという。しかし仁志田市長は、「基準は国が決めているので、これを損なうようなことはできない。小さい子どもに配慮する考え方は別にあると思う」として、対応しなかった。

 「当時、子どもがいる人たちの多くは避難したがっていました。でも、特定避難勧奨地点に指定されなかった家は、避難をあきらめるか、自主避難するしかありませんでした。指定されれば、借り上げ住宅が用意され、医療も無償で受けられますが、指定されなければ何の補償もありません。子どもの命に差がつけられてしまったんです」と、上野さんは当時をふりかえって憤る。



■計画的避難区域にすべきだった

 「小国地区と飯舘村とは、同じくらいの汚染レベルでした。だから伊達市は、飯舘村のように地域まるごと計画的避難区域に指定するか、もしくは特定避難勧奨地域にして、せめて面的に指定するよう政府に申し入れをするべきでした」
 文部科学省が発表した航空機モニタリングのデータを指し示しながらこう批判するのは、伊達市議の菅野喜明氏だ。
 菅野市議は、特定避難勧奨地点が決定される6月末前後で、航空機モニタリングに記されている小国地区の汚染レベルが下げられている点に着目し、「避難させないために意図的に隠蔽したのではないか」といぶかしがっている。


2011年5月26日時点のモニタリング(上)では、小国地区は黄色(1000K~3000K)で示されているが、7月2日時点のモニタリング(下)では、みず色(300K~600K)に汚染レベルが引き下げられている。

 さらに、特定避難勧奨地点を決める際の放射線の測定方法や、避難基準にも問題があったと指摘。
 「市は、放射線量の高そうな場所は計ってくれませんでした。しかも、玄関先と庭先のたった2か所の測定結果だけで判断されてしまったんです」
 そもそも、同じ避難勧奨地点でも、南相馬市と伊達市では指定基準が大きく異なった。
 南相馬市では、子ども・妊婦のいる家庭では、地上から50センチで計測して2マイクロシーベルト毎時以上あれば特定避難勧奨地点に指定したが、伊達市では、子ども・妊婦のいる家庭でも、地上1メートルで計測し、2.7マイクロシーベルト毎時以上計測されないと指定しなかった。また南相馬市は、“子ども”を「18歳以下」と定義したのに対し、伊達市では「小学生以下」に限定するなど、南相馬市にくらべて避難の指定基準が厳しかったのだ。つまり、避難指定の判断は、市に委ねられていた。


■防護服を着て自分で除染

 伊達市保原町に住む佐藤みゆきさん(仮名)は、防護服を着て、みずから自宅前のホットスポットを除染したという。

 「うちの団地の前には、10マイクロシーベルト毎時を超えるようなホットスポットがあちこちにあります。でも、市は除染してくれないので、元東電社員の方にアドバイスをいただきながら、団地のママ友といっしょに除染しました。除染といっても掃き掃除程度。防護服を着るなんて大げさだと思われるかもしれませんが、本来、0.6マイクロシーベルト毎時を超える場所は“放射線管理区域”なので、防護服を着用しなくてはならないのです。でも、みんなそんなことは知りませんから、普通のかっこうで掃除しています。なんだかおかしいですよね」

 伊達市は、汚染レベルに応じて、除染の順番や方法を決定している。佐藤さんが住む保原町は、年間被ばく量が1〜5ミリシーベルトと比較的低い「Cエリア」に属するため、当初、伊達市は「除染は行わない」としていた。そのため佐藤さんらは、「子どもが毎日通る場所だから」と、自分たちで除染したのだ。
 しかし、市民から除染してほしいという要望が多かったため、3マイクロシーベルト毎時以上のホットスポットが見つかった場合にのみ、市が除染するということに改められた。とはいえ、Cエリアの場合、市はホットスポット部分の数十センチ四方しか取り除かない。しばらくたつと、また放射線量が高くなるので、ふたたび市に除染を依頼すると、「放射性セシウムは土に吸着されているので、一度除染した場所がまた高くなることは経験上考えられない」といって、対応してもらえないという。
 しかし高橋候補が、汚染の程度にかかわらず、どのエリアも全戸除染すると公約に掲げたため、仁志田市長も急きょ「Cエリアもフォローアップ除染をする」と政策を改めた。
 「選挙対策でしょうね。フォローアップ除染なんて信用できません。どうせ数センチ四方の土を取って終わりでしょう。その点、高橋候補は全面的に除染すると言っているので、期待しているんです」と佐藤さんは語る。


      <伊達市の除染区分>


■被ばくを助長する放射線リスクアドバイザー

  そのほか母親たちが危惧していたのは、市の“放射線リスクアドバイザー”が発するメッセージだ。
 「伊達市が発行する復興・再生ニュースには、多田順一郎さんという放射線リスクアドバイザーのコラムが載っています。『1キログラムあたり6万ベクレルの放射性セシウムを食べても、内部被ばくは1ミリシーベルトに満たないからだいじょうぶ』『山菜や、おばあちゃんが作った野菜を食べよう』などといって、わざわざ内部被ばくを助長させるようなことを言っています。年配の方はこれを読んで安心し、測定もしていない家庭菜園の野菜や山菜を子どもに食べさせているんです」(上野さん)
 
 上野さんは、NPO団体に協力を依頼し、定期的に子どもの尿中セシウム量を計測しているが、家庭菜園の野菜を食べている子どもの尿からは微量の放射性セシウムが検出されているという。
 同じく前出の佐藤さんも、以前、多田氏の講演会に参加したとき、こんな放言を聞いて耳を疑った。
 「内部被ばくをおそれるのは、100万人のなかにたったひとりまじっているテロリストを怖がるようなもの。1発の銃弾を発射したとしても、当たる確率は非常に低い」
 テロリストが何人もいたら、確率は上がりますよねと、佐藤さんは疑問を投げかける。
 
 伊達市には、多田氏以外にもうひとり、半谷輝己氏という塾講師が健康相談員として配置されており、学校や公民館で放射線についての講演を行っている。
 「半谷さんは、『放射線を怖がるのは、“口裂け女”のデマを怖がるのと同じ』『放射線セシウムより、ほうれん草の根っこを食べるほうが身体によくない』といったことをおっしゃるので、まったく信用できません。対立候補の高橋さんに『当選したあかつきには、多田さんを放射線リスクアドバイザーから外してほしい』とお願いしたら、約束してくれました。期待しています」(母親ら談)


■勝算はあるのか

 公示日の19日に、伊達市内で立候補者らの「公開討論会」が開かれた。そのなかで、市内経済を活性化する方法について問われると、仁志田市長は「地元産のイノシシ肉をレストランで提供するなどして、地元産業の活性化を図るのもひとつの方法」と答え、放射能から子どもを守りたい母親たちからはひんしゅくを買った。一方、対立候補の高橋氏は、「徹底した除染を行い、安心・安全を確立すれば市も活性化していくのではないか」と答え、共感を呼んた。

 一見、新人の高橋候補が優勢のように思えるが、地元からはこんな声も聞こえる。
 「仁志田市長は、JAや地元の経営者層からは根強い支持があるんです。放射能被害で売れなくなっていた桃の販売を強化したり、出荷停止になっていたあんぽ柿の出荷を再開させたり、地元の農業や産業の復興には力を入れていますから。組織票は大きいと思いますよ」
 農業の再生や、地場産業の活性化もだいじかもしれない。しかし、次期市長には、くれぐれも「命」と「経済」を天秤にかけることのないように望む。 

 最後に、現職の仁志田市長と高橋氏に以下の質問を送ってみた。残念ながら仁志田市長からの返答はもらえなかったが、高橋氏からは回答をいただいたので掲載する。伊達市の方は、投票する際の参考にされたい。

<高橋候補回答>

Q     子どもたちを学校単位で「保養」に出す計画などはあるか?

A 必要なことはわかっているので、研究、検討はしたい。検討する中身に、保護者や子どもたちの現在の保養についての意識を調べ、実現に可能なかぎり取り組みたい。

Q     「市政だより」で放射線リスクアドバイザーの助言が内部被ばくを助長するような内容になっているが、改めるつもりはあるか。

A こうした表記をすることは、とても信じられないことなので改める。一体どういう考えで、住民代表である市長がこうした市政だよりを出してしまうのか、全く理解できない。

Q    その他、子どもたちを低線量被ばくから守るための具体的施策はあるか?

A 
〇徹底した除染
〇食べ物の放射能検査を行い、内部被ばくを避けること。 

 ( ママレボ@和田 )



こちらの動画からも、各候補者の主張や考えがよく伝わってきます。





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2014年1月20日月曜日

郡山測定レポート(5)

ホットスポットファインダーで測定をするために、福島県に何度か伺っていますが、伺うたび、ハッとする景色に遭遇します。

12月11日に伺ったときに出逢った景色は、大きな半円を描く虹でした。





この日は、Aさん(郡山市在住)と、Cさん(郡山市在住)そして、こどもみらい測定所の石丸偉丈さん、服部夏生さん、ADRA JAPANの小出一博さん、私(伊藤)の6人で、小雨の降る中、測定を開始しました。


Cさんは、幼いお子さん2人のお母さん。子どもの通学路と、親戚のお子さんの幼稚園付近の測定をしてほしい、ということでした。

今回の測定でも、やはり子どもの生活環境の中に、ホットスポットが点在していることがわかります。


◆道路に垂直に交わる側溝 



側溝というと、道路に沿ってあるもの、というイメージがありますが、Cさんのお子さんの通学路には、大人の足で約20歩ごとに、道路と垂直に交わる側溝がありました。
(郡山市内の別の場所でも、そういった側溝を見かけました。)

その側溝は、道路の下を通り抜けるのですが、その道路と交わるところ(イラストの赤い○の部分)には、落ち葉や、石、落とし物(長靴やボールなど)が詰まっています。
そこの近くは、周辺(0.2~0.3μSv/h)よりも高く、0.8~1.0μSv/hほどありました。
堆積物と一緒に、放射性物質も溜まっているのだと思われます。

この測定をしたのは午前中だったのですが、午後、別の場所の同じ作りの側溝の中から手のひらサイズの石を拾いあげる下校中の小学生を、走る車の窓から見かけました。

子どもの下校時間は、ちょっとした「散歩」と同じです。当然、気になるものには手がのびるでしょう。
ある程度認識した上で現状に折り合いを付ける大人の行動と、何も分からないまま放射性物質はないことにされる子どもの行動というのは、別のものだと思います。

子どもが、常に注意し続けて生活するということは難しいかもしれませんが、せめて学校などで、「ここには放射性物質がたまりやすい」という知識の共有があると、いいのでは、とAさんとお話ししていました。


◆雨樋のない屋根から落ちる放射性物質のたまり場所



測定しながら同じ歩調で進んでいると、突然、0.2μSv/hほど線量があがった場所がありました。
「なんだろう?」と、付近を測定してみると、雨樋のない屋根から雨の落ちたことが分かる場所(下イラスト)が原因であると分かりました。地表5cmで、1.5μSv/hを超えます。

雨の落ちる場所が、通学路側にあったため、付近一帯の線量が、周囲よりも上がったようでした。
そこは、人家ではなかったので、手が入れられていない(除染はされていない)場所でした。

このような「人は住んでいないけれど、持ち主はいて、かつ、子どもが近くを歩く土地」の除染は、どうたらいいのかということは、問題のひとつではないかと感じます。



◆雨樋下が落ち葉や木に隠れている場所

上の「◆2」と同じく、通学路を歩いていて、ふと、0.3μSv/hほど線量が上がった場所がありました。
通学路に面したところに、雨樋から流れる水の出口があり、その出口が、ちょうど落ち葉や木で隠れていました。
その付近は2.0μSv/hを超えていました。

その場所に24時間立ち続けることはありませんが、子どもが毎日歩く通学路である以上、気配りがされてもいいのではないか、と思います。





◆理由がまったくわからない、ホットスポット

ホットスポットファインダーで測定していると、まったく理由がわからないのに線量が高い、という場所があることに気がつきます。
雨樋下や、屋根の雨水が落ちる場所、堆積しやすい場所、吹きだまり、木の根元、舗装の様子など、原因を予測できるケースもあるのですが、どんなに考えても変だな、という場所です。

唯一思いつくとすれば、「除染した土をここに置いたのかな」ということだけですが、それも、本当のところは分かりません。

このケースは、「郡山市」と書かれたポール(イラスト)が並ぶ、ただ1本の根元だけが、2μSv/hを超えた、不思議なケースです。
まったく同じポールが並ぶだけに、その線量の違いは、奇妙でした。

こういった場所があることを考えると、ホットスポットファインダーで測定をして、詳細なマップを作ることも、防御ためには必要な方法であると感じます。







冒頭の虹の写真ですが、じつは、この虹は、予定していた測定がほぼ終了した夕方、あらわれた虹でした。
1日中、「この線量が高い原因は何か」を考え続けていたので、思わず、「この意味は何か」と考えてしまいました。


震災からもうすぐ4年目を迎えますが、子どもをできるだけ守ろうと考え、努力し続けているお二人(Aさん・Cさん)とご一緒してお話を伺っていたので、「見えないものを考え続けることはしんどい」と改めて感じた1日です。虹と言えば「希望」のイメージですが、自然を汚してしまった申し訳なさや、それを取り戻す課題の大きさ、途方もなさも同時に感じて、複雑でした。

疲弊しながらも、今なお、考え続けている保護者も多くいます。本来は行政側が率先して被ばくの防護対策をしてほしいところですが、現状では、子どもたちが過ごす公共施設の除染のみに留まっています。できるだけ被ばくを避けて生活するためのしくみが作られてほしいと心から願います。

Aさんは、これからもこういったデータを集め、市長に届ける機会を作りたい、とお話してくださいました。

(ママレボ@伊藤千亜)


※ご一緒させていただた、服部夏生さん(こどもみらい測定所/常緑編集室)の詳細なレポートもご一読ください。こちらのブログでは、ホットスポットファインダーに表示された数値と共に、測定した土壌の結果などもきちんと示されています。
  




2014年1月5日日曜日

傍聴レポート:「第二回住民の健康管理のあり方に関する専門家会議」

「第二回住民の健康管理のあり方に関する専門家会議」(環境省主催)が、去る1225日に開催されました。その傍聴レポートをお届けします。

(第1回目のレポートはこちら


◇福島や近隣県の健康管理のあり方や医療の施策について検討することが目的

 はじめに、この専門家会議の趣旨を、もう一度確認しておきたいと思います。

資料に示されている「開催要項」は以下の通りです。



 つまり簡単に言うと、「福島はもちろんのこと、放射能汚染が広がっている近隣の県(茨城や群馬、宮城、岩手、また千葉等)も含め、国として現状行われている健康管理のあり方や課題を把握し、医学的見地から、その健康管理のあり方が妥当であるのか検証のうえ、必要な施策を講ずるために開催する会議」ということです。
 
福島県だけではなく、「近隣の県も含め」という点がポイントです。

 なぜこのタイミングで、こうした会議が開かれることになったかというと、趣旨の(2)に記されているように、子ども被災者支援法」において、「国は放射線による健康への影響に関する調査等に関し必要な施策を講ずることと」明記されているからです。この法律に基づいて、この専門家会議は開催されています。

 まず、この「趣旨」を踏まえたうえで、趣旨に添った議論をしているのかどうかを吟味しながら下記のレポートを読んでいただければと思います。


◇ たった1080人だけの実測値で、「安全」と評価するつもり?

 第1回と第2回の専門家会議では、主に【検討内容】の(1)被ばく線量把握・評価に関すること」が話し合われました。

その内容をざっくり説明します。

 委員たち(とりわけ長瀧座長)がもっとも重要視しているのは、「いわき市・川俣町・飯舘村」において2011324日~30日に実施した15歳以上の小児1080人に対する甲状腺スクリーニング検査の実測値についてでした。

 この日の議論では、これまで問題視されることが多かった「バックグラウンド(スクリーニング検査を行う場所の空間線量)の数値について」や、「測定方法は適切だったか」また、「実測値は、シミュレーションによって出されている初期被ばくの数値と比べてどう違うのか」、といった点について話し合われました。

 結論から言うと、一部の委員からは、「スクリーニングの実測値だけではなく、ホールボディカウンターの数値や行動調査、経口摂取の可能性なども合わせて慎重に推計していく必要がある」という意見も出ましたが、総論としては、

・「甲状腺を計測したときのバックグラウンドは、0.2マイクロシーベルト毎時くらいの低い場所で計測しているから問題はない」

・「シンチレーションサーベーは感度が高いし、ヨウ素は計りやすい核種なので、(甲状腺に)近いところで計測したデータということなら信憑性が高い」

・「細かい被ばく線量は別として、(甲状腺等価線量がヨウ素剤を配布する基準の)50ミリシーベルト以上ではなかったということは信用していいのではないか」

などの意見が出て、「サーべーメーターの実測値は、おおむね信頼できる値だ=(初期被ばくは少ない)」といった方向に導かれました。


◇ 世界的にも信憑性がないデータでの議論がつづく

 たしかに、ヨウ素による初期被ばくを明らかにするうえで、実測値は重要な意味を持つのだと思います。
 しかしながら、このサーべーメーターによるスクリーニング結果は、海外の専門家からも、「過小評価されているのではないか」と疑問の声が上がっていましたし、当時スクリーニングを行った原子力安全委員会さえも、「今回の調査は、スクリーニングレベルを超えるものがいるかどうかを調べることが目的で実施された簡易モニタリングであり、測定値から被ばく線量に換算したり、健康影響やリスク等を評価したりすることは適切でないと考える」とコメントを発表しています。

 他の専門家からも、「サーべーメーターでは、甲状腺の正確な実効線量は測れない」「バックグラウンドの空間線量が高すぎる」「わずか1080人のデータでは十分だ」などの問題点が上がっていましたし、いわき市など、初期にヨウ素による高濃度のプルームが通った地域の母親たちからは、「こんなわずかなスクリーニングだけで、初期被ばくを評価されるのは不安」との声も多数ありました。

 にもかかわらず、この委員会では新たなデータや見解を示すこともなく、これまで何度も議論されてきたことの繰り返しに終始していることに、大きな失望と怒りを禁じ得ませんでした。

 これでは、被ばくを余儀なくされた住民は納得しませんし、子ども被災者支援法にうたわれている「必要な施策」など、何も講じることができないのではないでしょうか。


◇近隣県の初期被ばくについて検証するつもりがない委員会

 福島県の初期被ばく評価でさえこんな調子ですから、福島県外における初期被ばくの評価にいたっては、最初から適切に行うつもりがないのは見え見えです。
 たとえば会議の中の、こんなやりとりがそれを象徴しています。

 議論の終盤に、春日文子委員(日本医薬品食品衛生研究所安全情報部長/日本学術会議副会長)がこのような質問を投げかけました。

春日:「県外でも同じようにプルームが通った場所があるわけです。今回は福島県内で直接甲状腺の検査をした方々、あるいはそのシミュレーションのデータも含めて評価したわけですが、同じ程度の、あるいは程度が違うにしてもプルームが通ったところは福島県外でも同じくらいの被ばくがあったということの評価につながるんでしょうか?」

 すると、長瀧座長がこう答えました。

長瀧:「それはいえない。データがないから、今あるものだけを徹底的に議論しましょうというお話しでして、今少なくともこれ以外にヨウ素131を測ったデータはないわけですよね。ですから他の県でどうだったかと言われても、それはわかりませんけども……。」

ここで、長瀧座長の発言をさえぎるように、本間俊充委員(日本原子力研究開発機構 安全研究センター長)が、こう発言しました。


本間:「プルームが通過したから被ばくがあるというわけではなくて、福島県と県外ではもちろんレベルが全然違うわけです。それの基本的なデータとしては、先ほど事務局から説明があったように少なくともヨウ素、まあセシウムについては十分な土壌中の濃度分布があるわけですけども、セシウムについても発表されているわけですし、それのデータの検出限界値以下のところは、非常に小さいわけですから、シミュレーションでプルームが通過したからと言って、今ここで議論したようなヨウ素の線量レベルが他県でもあったということはありえないと思います。」


そして、最後に長瀧氏がこう結論づけました。


長瀧:「ここは専門家会議ですから。健康にほとんど影響がない、と科学的にないと言うのは非常にむずかしい、言えないところなんですけども、非常にリスクが少ないところを引っぱり出して、それだけを議論するのではなくて、専門家会議ですから、そのリスクがどのくらいかということも含めて、議論するのがこの会議の目的だと思うんです。
そういう意味では本間先生のお話しにありましたように、他県は(ヨウ素被ばくを)測っていないとしても、その程度は客観的な状況、セシウムの沈着状況から考えて、同じようなプルームは通ったかもしれないけども、プルームが通っただけで地上に落ちなかったということもあるかもしれないけども、それは実際に、測定された線量データから言って、あまり考える必要はないということでよろしいですか?」


◇専門家会議なら、専門家らしい科学的な議論をしてほしい

こんな議論で良いわけがありません。
「データがないから、わからない。プルームが通ったかもしれないけど、考える必要はない」
とは、専門家の発言なのでしょうか。

 かりに地上に沈着していなくても、プルームが通った時間に外にいた子どもは、十分、被ばくしていることが考えられます。

 この委員会は、信憑性の薄い初期被ばくのデータ等だけを持ち出し、福島県内はもちろん、県外まですべて 「被ばくは少なかった。だから特別な検診や医療補助などは必要ない」と結論づけるつもりなのでしょうか。

 この日の会議では、私のとなりで「放射能から子どもを守ろう関東ネット」の代表、増田さんが傍聴していました。
増田さんは、こうした議論を聞きながら、「たったこのデータだけで、(千葉県の)私たちの初期被ばくもなかったことにされてしまうのか」と、怒りと不安をあらわにしておられました。

 関東ネットでは、地元の常総生活協同組合と連携して、早い段階から土壌の測定や子どもたちの健康調査(血液検査、尿検査、甲状腺エコー検査等)を実施してきました。
 その結果を見ると、必ずしも安心していられない傾向も見られ、地元の母親たちは何度も環境省や復興庁に申し入れ、きちんとデータを示したうえで健康調査の必要性を訴えていました。

 しかし、現在までのところ、この専門家委員会で千葉県のデータが取り上げられることもなく、意見の違う多様な専門家を呼んで意見を聞くこともなく、まったく科学的でない議論が繰り返されています。
 この会議の目的は、福島県だけではなく、「近隣の県も含め」て、健康管理のあり方や今後必要な医療施策について検討する、ことではなかったでしょうか?
 目的がまったく果たされていません。


◇議論の動画公開を

 この会議で議論されている原発事故直後による被ばくの影響や、今後の健康調査や医療については、私たちひとりひとりに深く関係してくることです。

 しかし、この会議はクローズドな状況で行われており、私たちはわざわざ会場に足を運ばないかぎり、その中身を知ることができません。

 環境省による動画配信も行われていませんし、市民メディアによる中継も撮影も、頭撮りだけしか許可されていないからです。(ずいぶん時間がたってから、ホームページで議事録がアップされるだけです)



 委員の先生方がじっくり議論ができるようにとの配慮らしいですが、そうした配慮は、被ばくを強いられている国民にこそ向けられるべきです。

 内輪だけで議論していたのでは、この委員会を開いている意味がありません。
 ぜひ、中継も入れて、一般に開かれた形で議論していただきたいと強く要望します。

 福島はもちろん、北関東や首都圏においても、被ばくによる健康影響が起きる可能性が考えられます。
 この委員会で、しっかり議論がつくされ、適切な健康管理や医療の施策提言が打ち出されるよう、今後も注視していきたいと思います。

ママレボ@和田秀子

 *****************

甲状腺の初期被ばくについては、島薗教授のブログにわかりやすくまとめられています。
ぜひ、ご一読ください。


***
こちらも。

中村降市ブログ 風の便り 

2014年1月3日金曜日

放射線の健康影響に関する専門家意見交換会 ~第3回“甲状腺”を考える 傍聴レポート~

 みなさま、昨年は「ママレボ」を応援していただき、ありがとうございました!
本年も、ほそぼそとではありますが、草の根レベルで発信していきたいと思いますので、どうぞ応援よろしくお願いいたします。


 さて、昨年12月にふたつの重要な会議が行われました。
ひとつは、1221日に福島県白河市で開催された「放射線の健康影響に関する専門家意見交換会」3回目の「“甲状腺”を考える」(環境省・福島県主催)

 もうひとつは、1225日に都内で開催された「第2回住民の健康管理のあり方に関する専門家会議」です。

 年頭に、このふたつの会議を傍聴したレポートをまとめておきたいと思います。
かなり長文ですが、お付き合いいただけるとうれしいです。


◇福島県で多発している小児甲状腺ガンは、放射線の影響だとは考えにくい?

 まず、1221日に福島県白河市で開催された「放射線の健康影響に関する専門家意見交換会」3回目の「“甲状腺”を考える」を傍聴したレポートからです。

 この意見交換会の目的は、放射線の影響によって不安のなかで生活することを余儀なくされている福島県民の方々が、日常生活において行動判断に必要な情報や多様な意見をアドバイザーから聴取し、共有化を図るために開催されているそうです。




 3回目の意見交換会となったこの日は、福島県県民健康管理調査(以下、県民調査)で甲状腺検査を担当している鈴木眞一氏(福島県立医科大学教授)と、福島県での「小児甲状腺ガン多発」の可能性を示唆している津田敏秀氏(岡山大学教授・アウトブレイク疫学専門)との、いわば“対決”とでも言うべきプレゼンテーションが行われました。

 これまで福島県で行われた小児甲状腺エコー検査では、「悪性ないし悪性疑い」が59人(うち乳頭ガン26人、良性結節1人)見つかっています。




 しかし鈴木氏は、これまで一貫して、「現在、福島県で見つかっている小児甲状腺ガンは放射性の影響とは考えにくい」という見解を述べていました。この日のプレゼンテーションでも、同じ見解が繰り返されました。

 「放射性の影響とは考えにくい」ことの理由として示されたのは、

(1)20113月下旬に行われた1080人の子どもたち(いわき・川俣・飯舘)に対する甲状腺のスクリーニングレベルが、甲状腺ガンのリスクが上がるとされている100ミリシーベルトを超えなかったこと。

 (2)チェルノブイリと福島を比較した場合、福島は、子どもたちの甲状腺等価線量が低いこと。また日本の子どもたちは、日常的に昆布などからヨードを摂取しているので甲状腺ガンが増加することは考えにくいこと。

といった理由からです。




 よって、現在発見されている小児甲状腺ガンは、「本来、大人になって自覚症状が出てから発見されるはずだったものが、スクリーニング検査によって早期に見つかっただけ」と、結論づけられています。

 さらに鈴木氏は、この日のプレゼンテーションの度ごとに、「甲状腺ガンの予後はいい(生存率が高い)。若いほど進行が遅いのだ」ということを何度も力説していました。



100ミリシーベルト以下なら、被ばくによる発ガンは「出ない」というのは誤解

 一方で、岡山大学の津田氏は、鈴木氏とは正反対のプレゼンテーションを行いました。

津田氏が主張していたのは、次の2点です。

 (1)100ミリシーベルト以下の放射線被ばくでは、ガンは出ない」という説が誤りであること。
 (2)福島県における小児甲状腺ガンの発生は率は、すでに“多発”であるということ。

 まず(1)について津田氏は、

 「日本政府が依拠しているICRP2007勧告では、100ミリシーベルト以下の放射線被ばくでは、発ガンに関する統計的有意差がない』とされているだけで、決して『ガンが出ない』とは言っていない。
 日本の専門家でも、誰も『ガンが出ない』とは言っていないし、20136月の福島県民健康管理調査件等委員会では、100ミリシーベルト以下はガンは出ないとは言わないようにしましょう』と確認されている。にもかかわらず、いつの間にか伝言ゲームのようになって、現在、政府レベルでは『100ミリシーベルト以下の放射線被ばくではガンが出ない』という間違った解釈がされている。文科省や環境省などは、こうした間違った解釈を国民に伝えている」

と、懸念を示しました。


 このように間違った解釈がなされた理由として、津田氏は、原発事故直後に放射能影響研究所がホームページに掲載した『放射線被ばくの早見図』のなかで、「100ミリシーベルト以下はガンの過剰発生は見られない」という表記があったためではないか、と指摘。

 ちなみに放医研では、この後、ホームページで訂正を発表。「ガンが過剰発生しないことが科学的に証明されているかのように誤って解されることを避けるため、20124月の改訂時に表現を改めました」として、早見図の表記を改めています。


        (引用:http://behind-the-days.at.webry.info/201307/article_23.html


 続いて津田氏は、世界には、10ミリシーベルトに満たない低線量被ばくでも、ガンが有意にふえているデータが多数あることを示しました。

 たとえば、CTスキャンを1回受けると、受けていない人より統計的有意にガンがふえることがオーストラリアの研究でわかっていることや、自然ガンマ線でさえ、浴びる量がふえると白血病が増加する、というイギリスの研究データがあることなどを示しながら、「100ミリシーベルト以下でも有意にガンがふえる」ということを伝えました。







◇福島では、すでに小児甲状腺ガンのアウトブレイクが始まっている?

 次に津田氏は、自身の専門である「アウトブレイク疫学」の分析を用いて、現在、県民調査で見つかっている小児甲状腺ガンの発生率が、国立がん研究センターで発表されている甲状腺ガンの発生率と比べて、どの程度“多発”であるかを示しました。

 国立がん研究センターのデータによると、日本における1975年から2008年までの15歳~19歳の年間甲状腺ガンの発生率の平均値は、100万人に5です。
これを15歳~24歳まで幅を持たせても、100万人に11となります。



 しかし、県民調査で現在までに見つかっている小児甲状腺ガンの数を統計式に当てはめてみると、有病率*65と長く仮定しても、まだ統計的有意に増加しているということです。






 津田氏は、「本来、自覚症状が出て見つかるガンが、スクリーニングの結果早く見つかっているという理由だけでは、到底、説明がつかないほど多発している」と指摘しました。

(有病率*・・・・検診および細胞診をしなくても、通常の臨床環境で甲状腺ガンが診断できるようになるまでの期間)


 プレゼンテーションの結論として津田氏は、下記のように締めくくりました。

「“アウトブレイク疫学”は、いわば走りながら考える疫学だ。
アウトブレイク対策の基本というのは、多かれ少なかれ何らかの疾患のアウトブレイクが少しでも想定される場合は、そのアウトブレイクの可能性が完全に否定された場合のみ、対策を立案する必要がない。
 今は、アウトブレイクの可能性が完全に否定されるどころか、アウトブレイクの可能性を十分に予想できるデータしかない。対策を立案し実行のタイミングをいち早く設定するのが行政の責務だ」
という意見を述べました。





 
 ◇議論かみ合わず、福島県の放射線アドバイザー総動員で反論?

 後半の意見交換会においては、福島県のアドバイザーもまじえてディスカッションが行われました。
 しかし、建設的な議論というよりも、とにかく津田氏に反論したいだけなのでは?と思われるような発言が多数出て、議論がかみ合っていない印象を受けました。一部のアドバイザーから出た意見と、それに対する津田氏の問いを抜粋、編集して掲載しておきます。




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<西 美和>(甲状腺評価部会/広島赤十字・原爆病院 小児科)
ひとくくりに「100ミリシーベルト以下」と言っても幅が広い。12ミリシーベルトと8090ミリシーベルの被ばくを同等に考えていいのか。同じように心配しないといけないのか。0100までひとくくりに評価しているように聞こえる。12ミリシーベルトの被ばくと8090ミリシーベルトの被ばくでは影響が違うんだということを明確に言ってもらわないと誤解が生じる。

<津田>
放射線被ばくによる発ガン影響は直線で、低ければ低いほど発ガンリスクは低くなる。ただし、甲状腺への被ばく量というのはWHOのデータでは若干高くなっているし、アメリカ国防総省のデータでも乳児について結構高い値になっている。
私が言いたかったのは、「100ミリシーベルト以下ならガンが出ない」というふうにメディアや官僚が信じているので、それはまずいだろうと。今日でいうリスクコミュニケーションも図れない。これは間違いだということをまず示さないと、100ミリシーベルト以下でも低ければ低いほどガンのリスクは低くなるという議論すらできなくなる。だからその間違いを正すために話した。

<鈴木眞一:福島県立医科大学教授>
CTスキャンによる発ガン率増加を示していたが、あれはもともと健康状態が悪く、受ける人はそれなりのバイアスがかかっており、一般的に偏ったデータではないかと言われている。われわれ日常診療でも差し支えるような表現になっているが、アドバイザーのみなさんの意見をお聞きしたい。

<広野町アドバイザー芥川一則>(福島工業高等専門学校コミュニケーション情報学科 教授)
私は門外漢なのだが、津田先生がお示しになったデータに関しては、ちょっと偏ったデータではないかという感じを受けた。というのはまったく健康ではない方にCTスキャンを行うことはないと思う。CTスキャンを受けなさいとドクターに言われたわけだから、なにがしかの疑いがあってデータをとっているということは、その集団自体が病気になっているという可能性が高いと考えられるが、いかがか。

<津田>
よくデータを見て、その考察と方法論を読んでいただいたらわかる。しかもCTスキャンはたくさんの部位をとっており、CTをあてた部分以外の部位のガンも増加している。100ミリシーベルト以下の発ガンを示すデータはこれだけじゃなく、お手元に配られた資料にも掲載されているが、たくさんある。「100ミリシーベルト以下ならガンが出ない」という論文のほうこそ見つかっていない。

<伊達市アドバイザー:多田順一郎>(放射線安全フォーラム理事)
津田先生は100ミリシーベルト以下でもガンがたくさん出ているという論文がたくさんあるとおっしゃっている。私は専門ではないが、そういう論文があることは承知している。ただ、ご存じのように世の中にはパブリケーションバイアスというのがあり、有意差がなかったというのは普通、論文にならない。そこをまずはっきりおっしゃらないと、どの論文もみんな出ているという議論は適切じゃない。

津田:ご存じのように、有意差がなかったという論文もたくさん出ている。

甲状腺評価部会:西 美和>(広島赤十字・原爆病院 小児科)
私は医療現場で小児科医をやっているが、おかあさんが「子どもが転んだのでCTをとってくれ」と、とらなくてもいいのに言ってくることがある。脳外科をやっているとそういうことがある。それが100ミリ以下でガンが多発するということであれば、今度は何年か後に「私たちは小さいときに頭のCTをとったからガンになったのだ」と訴えられる可能性もあるかもしれない。100ミリシーベルト以下でガンがふえないというのを否定するわけじゃないが、12ミリシーベルトの被ばくと90100ミリシーベルトの被ばくでは、レベルが違うということを必ず言ってもらいたい。数ミリシーベルトの被ばくでも同じリスクがあると思われたら困る。

<津田>
その点に関しても、論文の考察に書いてある。日本は先進諸国のなかで、ダントツのCT被ばく国であるということは、別のランセットの論文にも載っている。


甲状腺評価部会:西 美和>(広島赤十字・原爆病院 小児科)
以前、津田先生は有病期間を7年として計算されていた。しかし今回は2年とか4年とかで計算している。たとえば、直径34㎝のガンが見つかったが、これはかなり大きい。そしたらその人たちは2年じゃなくてもっと前からあったはずではないか。そのあたりがごっちゃになっている。本当の有病率はわからない。80歳の人が老衰でなくなった後、甲状腺ガンが見つかったとした場合、有病期間が4年だからといって76歳のときにできたガンかというと、そういうわけじゃないと思う。

<津田>
言いたいことはわかるが、この分析は、発生率と有病率をつなぐ式で出している。平均有病期間というのは関数分析でお好きな値を入れていただいたらかまわない。先生のお気に入りの数字を入れて計算してみてほしい。たとえ、有病期間を65年としても、まだまだ多発していることがわかる。
今はもう、「わからない」というような状況ではない。アウトブレイクというのは、わからないんだったら、リスク回避行動をとるべきだというふうに言っている。それがアウトブレイク疫学の原則だ。それと、スクリーニングするとたくさんガンが見つかるということがおっしゃりたいのであれば、チェルノブイリ周辺での非暴露者や、後で生まれた方々にはガンが見つかっていないということが説明できない。そういうふうなことを考えれば、「わからない」と言っている状況ではないと思う。

<浪江町アドバイザー:大平哲也>(福島県立医科大学医学部疫学講座 教授)
問題だと思うのは、有病率と発症率を比較したために、見た目ではものすごく倍率が高くなっていることだ。これを本当に多発といっていいのか。そこが一番の問題。臨床的に発症した甲状腺ガンの発生率と、有病率で得られた数を比較するのは、平均有病期間を考慮したとしても、そもそも発生率が違うものを比較してはいけないのではないか。もし先生が比較されるのであれば、同じ福島県内で、平成23年度の(原発に)近い地域の有病率と、二本松、本宮の有病率を比較するということであればまだしも、100万人に5人とかの国立ガンセンターの値を比較するのは実際より多く発症しているような誤解を与えるのでやめていただきたい。それから、中通り地方の被ばく量で、甲状腺ガンの発症リスクは何倍なのかということをまずお示しいただいて、実際に100万人に5人に当てはめた場合、何人にふえるのかというのを教えていただきたい。

<津田>
福島市が一番近くて、中地区が一番高い。これ割り算していただければ、一番低いところが高いところに比べて何倍あるか出てくる。それからもう少したつと、ヨウ素はそれなりに暴露しているけども、空間線量率は高くないいわき市のデータが出る。また、ヨウ素もそれほど高くないかもしれないし、空間線量率も高くない会津若松市のデータも出る。私がプレゼンテーションの間2回くらい強調して、「100万人に5人という比較はいらなくなる」と言ったのは、データがどんどんふえていったら必要なくなるからだ。


<浪江町アドバイザー:大平哲也>(福島県立医科大学医学部疫学講座 教授)
それであれば、100万人に5人というデータではなく、会津地方などのデータが出るまで待って、地域比較を行うべきだと思う。さらに個人の線量ではなく、地域、つまりエコロジカルなデータで因果関係を推計していいのか。

<津田>
はい、かまいません。

<浪江町アドバイザー:大平哲也>(福島県立医科大学医学部疫学講座 教授)
他の要素(リスク)というのは、まったく排除しているが?

<津田>
疫学論の話になるが、むしろこちらの方が、正確な評価ができる。教科書を読んでください。私が、疫学の専門家であるということを信じてもらわないと、どうしようもない。私が(数値を)高く見せよう見せようとして努力しているかのように言われているが、私は高すぎて困っている。むしろ、低く見せよう見せようと努力しているくらいだ。

<郡山市アドバイザー:太神和廣>(郡山市医師会 理事)
今までの議論を拝聴して、鈴木先生と津田先生の話はずいぶん違うと認識した。そもそもチェルノブイリ事故からもずいぶんたっているのだから、エコーの検査技術もかなり良くなっている。そんななかで、当時のデータを用いて比較するのはムリがある。この議論に決着をつけるには、福島県以外で甲状腺のエコー検査をしっかりやって、その後の2次検査もやっていけば1年以内に決着がつくと思う。また、甲状腺ガンが見つかっているのはスクリーニングの効果であるかどうかという点においても、鈴木先生がおっしゃったように経年的にやっていけば、(スクリーニング効果であれば)1年、2年たったからと言ってふえるということは絶対ない。そういうことをやっていけば、この問題は必ず決着がつく。津田先生のように、これがアウトブレイクの始まりだというのは、私は臨床の立場からすると、ちょっとムリがあるのではないかという感想だ。

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 以上に示したのは、当日発言のあった一部のアドバイザーの発言と、津田氏による返答を抜粋したものです。
 津田氏が研究している「アウトブレイク疫学」が、日本にまだなじみの薄い学問だということを差し引いても、まったく議論がかみ合っていない印象です。

 津田氏が強調したかったことは、現時点で小児甲状腺ガンのアウトブレイクが十分に予想できるデータが出ているのだから、その因果関係が放射線であろうとなかろうと、アウトブレイクをできるだけ食い止めるべく、早急に対策を練らなければいけないということです。

 ちなみに、こうした議論の後に「今後に向けての対策」が語られるはずだったのですが、残り時間がなくなり、もっとも肝心なことは議論されずに終わってしまいました。

 傍聴していて違和感を覚えたのは、福島県のアドバザーの方々(一部ですが)が、津田氏の意見に耳を傾け、県民の健康を守るために活かしていこうという姿勢がほとんど見られなかったことです。それどころか、まるで意固地になったかのように、「現段階で多発であるというのは納得がいかない」と繰り返していました。
 彼らは、いったい誰の方向をむいて、誰を守るために任務についているのでしょうか。

 今後はもっと多様な意見に対して率直に耳を傾け、「県民の健康を守る」という目的に向かって最良の対応をとってほしいものです。

(和田秀子)


当日の動画はこちら。
※レポートには入れられなかった内容もたくさんありますので、お時間のある方は映像をぜひご覧下さい。

2013.12.21 第3回 放射線の健康影響に関する専門家意見交換会 

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