栃木県那須塩原市で6月29日、原発事故の賠償請求に関する地域住民や事業者向けの説明会が開かれました。
観光地である那須塩原市は、福島第1原子力発電所の事故以降、「汚染調査重点地域」に指定されているにもかかわらず、健康調査も行われないばかりか、国の責任で行うはずの除染さえ、その費用が削られようとしています。
この説明会を主催した「那須塩原 放射能から子どもを守る会」代表の手塚真子さんは、
「自宅の庭先は、まだ1マイクロシーベルト毎時近くあります。もう子どもを庭に出すこともできません。きちんと国や東電の責任を認めさせたい。そのために集団訴訟を行うつもりです」と話してくれました。
「裁判」は大変な労力がかかります。避難を余儀なくされている方や、避難できずに被ばくを気にしながら生活している人にとっては、大きな負担となります。
ですから本来は、国が責任を持って賠償しないといけないはずですが、震災から2年以上たった現在でも、ほとんど進んでいないのが現状です。そればかりか、那須塩原市などは放射線量が福島県の中通りなどと代わらないにもかかわらず、国の勝手な線引きによって補償の対象外となっているのです。
時効が適応されるかもしれない、ということもあり、最近は各地で東電や国に対する集団訴訟が始まっています。
ここ栃木県北地域も、今年の秋に向けて集団訴訟の準備を始めています。
この日、説明を行ったのは「福島原発被害首都圏弁護団」の共同代表・中川素充弁護士です。
会場に訪れた約20名を前に、会場からの質問にも答えながら以下のように訴訟の説明を行いました。一部抜粋してリポートします。
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Q 集団訴訟を起こすことのメリットはなんでしょうか?
「訴訟」を起こすことによって、原発事故に対する「国や東電」の責任を問うことができます。
先日の報道にもあったように、国は、除染をしても空間線量が年間1ミリシーベルト以下にならないからといって責任を放棄し、「新型の優れた線量計を希望者に渡すので自分で確認してほしい」と言い始めています。
今までは、「線量が下がらなければ再除染する」と言っていたにもかかわらず、です。
このような姿勢は、加害者としての国の責任が欠如していることの現れです。
ふつう、町を歩いていていきなり誰かに殴られてケガを負わされたとしたら、加害者側が「これくらいの補償で終わりです」なんていうことで済ませられるはずがありませんよね。これが平然とまかり通っているのが現状で、誠におかしな話なのです。
こうした状況においては、もはや訴訟を起こし、司法の場で国と東電の加害責任をあきらかにしていくしかありません。それによって、すべての原発事故被害者が、生活再建をするのに十分な賠償を実現させていかなければならないと考えています。
もちろん個人で訴訟を起こしてもかまわないのですが、まとまって行った方がインパクトが大きく、社会に訴えかける力が大きいと考えます。
Q 裁判では、どういう点を主張するのでしょうか
放射能汚染されたことによる生活基盤の喪失やコミュニティの喪失・破壊などによる「人格発達権の侵害」や、平穏な生活を奪われたことによる「平穏生活圏侵害」、さらには原子力損害賠償基本法の枠内だけでなく、民放の不法行為、故意過失という点も明確にするよう主張し、それを裁判所に認めさせなければならないと思っています。
すでに、こうした理念の元で、福島県いわき市や東京など4カ所で裁判が始まっています。
請求内容や考え方は多少の違いがありますが、いずれも東電のみならず国をも被告にしている点で共通しています。
今後、8月から9月にかけて大阪や京都で、9月には群馬や神奈川でも訴訟が起きますから、ぜひ注目してもらいたいと思っています。
Q 賠償を受けるには、集団訴訟以外に方法はないのでしょうか。
賠償を求めるにはいくつかの方法があります。
ひとつは東電の書式に従って請求する「直接請求」という方法です。
しかし、これは東電が作成している書式に基づいてしか賠償をしませんから、例えば栃木県のように賠償の対象となっていない地域で賠償請求を行おうと思っても、そもそも書式自体が存在しないので請求できないということになります。
もうひとつの方法は、原子力損害賠償紛争解決センター(通称:ADR)への申し立てです。
しかし、この方法にも問題があります。
そもそもADR自体が「原子力損害賠償紛争審査会」という文部科学省の下部組織にあり、そこで 賠償の“中間指針”が決められていますので、国や東電の責任を十分に追及するものになっていない。つまり、東電が認める枠内しか賠償されないのです。
加害者であるはずの国が“自主的避難対象区域”を設定して、補償の線引きをしている状況はおかしいのです。
繰り返しになりますが、こうしたおかしな状況を正すには、訴訟によって国や東電の責任を追及していく必要があると考えています。
Q 原発子ども・被災者支援法は期待できないのでしょうか?
支援法は昨年の6月に成立しましたが、一年たっても「基本方針」が定まってないというのが現状です。
この法律には、とても良い理念が謳われているのですが、「基本方針や具体的な施策については政府が決める」と書かれており、予算措置についても明確になっていません。
しかも、政府が決めた施策については、国会の同意も必要ありませんし、国会に事後報告しさえすれば足りるという内容になっています。
つまり、官僚にとって都合の良い内容になっており、彼らの好きなようにできる。裏を返せば、「何もやらないこともできる」というわけです。
先日、支援法の担当官だった水野前参事官のツイッター暴言が明るみに出ましたが、政府や官僚たちは、「自分たちが決めるんだから、何が悪いんだ」という考えでいます。まず、国や東電の加害責任を明確に認めさせないと、こういう姿勢はいつまでも続くのではないかと思います。
Q 年間被ばく線量によって、線引きされる可能性はないですか?
なぜなら、実際に汚染されているという現実があり、かつ除染も行っているのですから、きちんと補償を求めていきます。
もちろん政府や東電は、線量の論争に持ち込んでくるでしょう。しかし、政府(環境省)が決めている「追加被ばく年間線量1ミリシーベルト」の根拠も、極めてあいまいなものです。
環境省は、「追加被ばく線量年間1ミリシーベルト」は、1時間あたりの空間線量率(航空機モニタリング等の NaI シンチレーション式サーベイメータによる)に換算すると、毎時 0.23 マイクロシーベルトにあたる」と主張しています。
しかしこの0.23 マイクロシーベルト毎時 という数字は、1日のうち屋外で8時間、残り16時間を遮へい効果のある屋内で過ごすことが前提となっています。そもそもこの算出根拠自体がおかしいのです。
事故前は、一般人の「追加被ばく線量は、年間1ミリシーベルト以内」ということしか決まっておらず、0.23マイクロシーベルト毎時なんていう数字は、事故後初めて出てきた数字で、それまではどの法律にも書かれていませんでした。単純計算すれば、本来「年間追加被ばく線量1ミリシーベルト」は、毎時0.11マイクロシーベルトになるのです。
もし、政府や東電が線量を問題にするならば、私たちとしても、こうした根拠を述べていくつもりです。
Q 集団訴訟となると、賠償金額は一律になるのですか?
いいえ。集団訴訟と言っても、請求する賠償金額は、それぞれの実情によって異なります。
Q 裁判にかかる費用と日数は?
まず、費用についてですが、「着手金」と「報酬」があります。
「着手金」は、本来であれば請求額の何%という形なのですが、私たちはひとりでも多くの方にこの裁判に参加していただきたいので、着手金は1世帯あたり1万円に設定しています。
ただ、裁判を進めるうえで、個別に出費が必要になった場合は、協議のうえご負担をお願いするケースもあります。
そのほか、絶対に必要なものとして「印紙代」というのがあります。
例えば、1000万円の請求をするとなると、ひとり5万円の印紙代がかかります。
ただし、原告がたくさん集まれば集まるほど、請求額に対する印紙代は少なくなるので、ひとりあたりの負担額は減ると考えてもらってかまいません。
印紙代の負担が厳しい方は、裁判所に「訴訟救助」という制度があって、印紙代支払いの猶予を受けられますので、別途ご相談ください。
報酬については、勝ち取った賠償金額の10%となります。もし敗訴した場合、この費用は発生しません。
次ぎに、裁判にかかる日数ですが、一般的に国や大企業を相手に裁判を起こす場合、過去の事例を見ても5~10年はかかっています。
しかし、長期間かけるのは問題があるので、私たちとしては長くても2~3年で結審したいと考えています。
この問題は、世論を盛り上げていくことが重要です。
この問題は、世論を盛り上げていくことが重要です。
ですから、裁判を行うにあたっては、できるだけ多くの人に現状を分かっていただけるように、法廷でも分かりやすく進めていくつもりです。また、法廷後には報告会などを開いて、傍聴人やマスコミにも広く訴えかけていきます。
最後にひとつ。
原発事故における国や東電の責任を追及し、被害の実態をあきらかにしていくためには、ひとりでも多くの方に訴訟に参加していただきたいと願っています。
しかし、負担が大きいので誰もが訴訟できるというわけではありません。ですから、集団訴訟と同時並行で救済のために施策をつくるよう、国や自治体に対して働きかけを行う予定です。
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説明会に参加した人たちからは、「キャンプ場を3000万円かけて除染したが、東電からは『補償できない』と言われた。こんなおかしな話しはない。ぜひ集団訴訟に加わりたい」とか、「孫の甲状腺ガンが心配で、地元の病院に連れていったところ診療拒否された。これからの健康被害が心配だ」といった声があがっていました。
また、原発20キロ圏内から那須塩原市に避難してきている男性は、「ここ(那須塩原市)は、私の住んでいたところと同程度か、それ以上汚染されているような場所もある。当然補償されてしかるべきだ。みなさん、自信を持って訴訟を行ってください」とエールを送りました。
加害者であるはずの国や東電が、一方的に補償の有無や、内容を決定するのはおかしいのではないでしょうか。
避難しているしていないにかかわらず、汚染地に住んでいる人たちは、「訴訟」という形で国や東電の責任を問うことができることを知ってほしいと思います。
震災から3年たつと、時効が成立する恐れがあります。(現在、時効をなくすための特措法を定める動きあり)、しかし、ひとまずADRに申し立てを行っていれば、万が一打ち切りになった場合でも1カ月以内に訴訟を起こすことができます。
自分たちのためだけに訴訟を行うわけではなく、勝訴すれば救済が広がっていく可能性もあるのです。
ママレボ編集部 和田秀子
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