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2014年1月5日日曜日

傍聴レポート:「第二回住民の健康管理のあり方に関する専門家会議」

「第二回住民の健康管理のあり方に関する専門家会議」(環境省主催)が、去る1225日に開催されました。その傍聴レポートをお届けします。

(第1回目のレポートはこちら


◇福島や近隣県の健康管理のあり方や医療の施策について検討することが目的

 はじめに、この専門家会議の趣旨を、もう一度確認しておきたいと思います。

資料に示されている「開催要項」は以下の通りです。



 つまり簡単に言うと、「福島はもちろんのこと、放射能汚染が広がっている近隣の県(茨城や群馬、宮城、岩手、また千葉等)も含め、国として現状行われている健康管理のあり方や課題を把握し、医学的見地から、その健康管理のあり方が妥当であるのか検証のうえ、必要な施策を講ずるために開催する会議」ということです。
 
福島県だけではなく、「近隣の県も含め」という点がポイントです。

 なぜこのタイミングで、こうした会議が開かれることになったかというと、趣旨の(2)に記されているように、子ども被災者支援法」において、「国は放射線による健康への影響に関する調査等に関し必要な施策を講ずることと」明記されているからです。この法律に基づいて、この専門家会議は開催されています。

 まず、この「趣旨」を踏まえたうえで、趣旨に添った議論をしているのかどうかを吟味しながら下記のレポートを読んでいただければと思います。


◇ たった1080人だけの実測値で、「安全」と評価するつもり?

 第1回と第2回の専門家会議では、主に【検討内容】の(1)被ばく線量把握・評価に関すること」が話し合われました。

その内容をざっくり説明します。

 委員たち(とりわけ長瀧座長)がもっとも重要視しているのは、「いわき市・川俣町・飯舘村」において2011324日~30日に実施した15歳以上の小児1080人に対する甲状腺スクリーニング検査の実測値についてでした。

 この日の議論では、これまで問題視されることが多かった「バックグラウンド(スクリーニング検査を行う場所の空間線量)の数値について」や、「測定方法は適切だったか」また、「実測値は、シミュレーションによって出されている初期被ばくの数値と比べてどう違うのか」、といった点について話し合われました。

 結論から言うと、一部の委員からは、「スクリーニングの実測値だけではなく、ホールボディカウンターの数値や行動調査、経口摂取の可能性なども合わせて慎重に推計していく必要がある」という意見も出ましたが、総論としては、

・「甲状腺を計測したときのバックグラウンドは、0.2マイクロシーベルト毎時くらいの低い場所で計測しているから問題はない」

・「シンチレーションサーベーは感度が高いし、ヨウ素は計りやすい核種なので、(甲状腺に)近いところで計測したデータということなら信憑性が高い」

・「細かい被ばく線量は別として、(甲状腺等価線量がヨウ素剤を配布する基準の)50ミリシーベルト以上ではなかったということは信用していいのではないか」

などの意見が出て、「サーべーメーターの実測値は、おおむね信頼できる値だ=(初期被ばくは少ない)」といった方向に導かれました。


◇ 世界的にも信憑性がないデータでの議論がつづく

 たしかに、ヨウ素による初期被ばくを明らかにするうえで、実測値は重要な意味を持つのだと思います。
 しかしながら、このサーべーメーターによるスクリーニング結果は、海外の専門家からも、「過小評価されているのではないか」と疑問の声が上がっていましたし、当時スクリーニングを行った原子力安全委員会さえも、「今回の調査は、スクリーニングレベルを超えるものがいるかどうかを調べることが目的で実施された簡易モニタリングであり、測定値から被ばく線量に換算したり、健康影響やリスク等を評価したりすることは適切でないと考える」とコメントを発表しています。

 他の専門家からも、「サーべーメーターでは、甲状腺の正確な実効線量は測れない」「バックグラウンドの空間線量が高すぎる」「わずか1080人のデータでは十分だ」などの問題点が上がっていましたし、いわき市など、初期にヨウ素による高濃度のプルームが通った地域の母親たちからは、「こんなわずかなスクリーニングだけで、初期被ばくを評価されるのは不安」との声も多数ありました。

 にもかかわらず、この委員会では新たなデータや見解を示すこともなく、これまで何度も議論されてきたことの繰り返しに終始していることに、大きな失望と怒りを禁じ得ませんでした。

 これでは、被ばくを余儀なくされた住民は納得しませんし、子ども被災者支援法にうたわれている「必要な施策」など、何も講じることができないのではないでしょうか。


◇近隣県の初期被ばくについて検証するつもりがない委員会

 福島県の初期被ばく評価でさえこんな調子ですから、福島県外における初期被ばくの評価にいたっては、最初から適切に行うつもりがないのは見え見えです。
 たとえば会議の中の、こんなやりとりがそれを象徴しています。

 議論の終盤に、春日文子委員(日本医薬品食品衛生研究所安全情報部長/日本学術会議副会長)がこのような質問を投げかけました。

春日:「県外でも同じようにプルームが通った場所があるわけです。今回は福島県内で直接甲状腺の検査をした方々、あるいはそのシミュレーションのデータも含めて評価したわけですが、同じ程度の、あるいは程度が違うにしてもプルームが通ったところは福島県外でも同じくらいの被ばくがあったということの評価につながるんでしょうか?」

 すると、長瀧座長がこう答えました。

長瀧:「それはいえない。データがないから、今あるものだけを徹底的に議論しましょうというお話しでして、今少なくともこれ以外にヨウ素131を測ったデータはないわけですよね。ですから他の県でどうだったかと言われても、それはわかりませんけども……。」

ここで、長瀧座長の発言をさえぎるように、本間俊充委員(日本原子力研究開発機構 安全研究センター長)が、こう発言しました。


本間:「プルームが通過したから被ばくがあるというわけではなくて、福島県と県外ではもちろんレベルが全然違うわけです。それの基本的なデータとしては、先ほど事務局から説明があったように少なくともヨウ素、まあセシウムについては十分な土壌中の濃度分布があるわけですけども、セシウムについても発表されているわけですし、それのデータの検出限界値以下のところは、非常に小さいわけですから、シミュレーションでプルームが通過したからと言って、今ここで議論したようなヨウ素の線量レベルが他県でもあったということはありえないと思います。」


そして、最後に長瀧氏がこう結論づけました。


長瀧:「ここは専門家会議ですから。健康にほとんど影響がない、と科学的にないと言うのは非常にむずかしい、言えないところなんですけども、非常にリスクが少ないところを引っぱり出して、それだけを議論するのではなくて、専門家会議ですから、そのリスクがどのくらいかということも含めて、議論するのがこの会議の目的だと思うんです。
そういう意味では本間先生のお話しにありましたように、他県は(ヨウ素被ばくを)測っていないとしても、その程度は客観的な状況、セシウムの沈着状況から考えて、同じようなプルームは通ったかもしれないけども、プルームが通っただけで地上に落ちなかったということもあるかもしれないけども、それは実際に、測定された線量データから言って、あまり考える必要はないということでよろしいですか?」


◇専門家会議なら、専門家らしい科学的な議論をしてほしい

こんな議論で良いわけがありません。
「データがないから、わからない。プルームが通ったかもしれないけど、考える必要はない」
とは、専門家の発言なのでしょうか。

 かりに地上に沈着していなくても、プルームが通った時間に外にいた子どもは、十分、被ばくしていることが考えられます。

 この委員会は、信憑性の薄い初期被ばくのデータ等だけを持ち出し、福島県内はもちろん、県外まですべて 「被ばくは少なかった。だから特別な検診や医療補助などは必要ない」と結論づけるつもりなのでしょうか。

 この日の会議では、私のとなりで「放射能から子どもを守ろう関東ネット」の代表、増田さんが傍聴していました。
増田さんは、こうした議論を聞きながら、「たったこのデータだけで、(千葉県の)私たちの初期被ばくもなかったことにされてしまうのか」と、怒りと不安をあらわにしておられました。

 関東ネットでは、地元の常総生活協同組合と連携して、早い段階から土壌の測定や子どもたちの健康調査(血液検査、尿検査、甲状腺エコー検査等)を実施してきました。
 その結果を見ると、必ずしも安心していられない傾向も見られ、地元の母親たちは何度も環境省や復興庁に申し入れ、きちんとデータを示したうえで健康調査の必要性を訴えていました。

 しかし、現在までのところ、この専門家委員会で千葉県のデータが取り上げられることもなく、意見の違う多様な専門家を呼んで意見を聞くこともなく、まったく科学的でない議論が繰り返されています。
 この会議の目的は、福島県だけではなく、「近隣の県も含め」て、健康管理のあり方や今後必要な医療施策について検討する、ことではなかったでしょうか?
 目的がまったく果たされていません。


◇議論の動画公開を

 この会議で議論されている原発事故直後による被ばくの影響や、今後の健康調査や医療については、私たちひとりひとりに深く関係してくることです。

 しかし、この会議はクローズドな状況で行われており、私たちはわざわざ会場に足を運ばないかぎり、その中身を知ることができません。

 環境省による動画配信も行われていませんし、市民メディアによる中継も撮影も、頭撮りだけしか許可されていないからです。(ずいぶん時間がたってから、ホームページで議事録がアップされるだけです)



 委員の先生方がじっくり議論ができるようにとの配慮らしいですが、そうした配慮は、被ばくを強いられている国民にこそ向けられるべきです。

 内輪だけで議論していたのでは、この委員会を開いている意味がありません。
 ぜひ、中継も入れて、一般に開かれた形で議論していただきたいと強く要望します。

 福島はもちろん、北関東や首都圏においても、被ばくによる健康影響が起きる可能性が考えられます。
 この委員会で、しっかり議論がつくされ、適切な健康管理や医療の施策提言が打ち出されるよう、今後も注視していきたいと思います。

ママレボ@和田秀子

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甲状腺の初期被ばくについては、島薗教授のブログにわかりやすくまとめられています。
ぜひ、ご一読ください。


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こちらも。

中村降市ブログ 風の便り 

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