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2012年11月14日水曜日

避難・移住の道を閉ざさないで!   県外借り上げ住宅の新規受付打ち切りの決定に、延長を求む切実な声


 福島県から避難したい人たちの「たのみの綱」が断ち切られようとしている。
というのも福島県は、県外へ自主避難する人に対する借り上げ住宅等の新規受付を、今年の1228日をもって終了すると発表したからだ。



 (県外の借り上げ住宅の新規受付終了について)※クリックすると拡大します。

 現在は、福島県からの自主避難者に対しても、「災害救助法」のもとで、応急仮設住宅としての借り上げ住宅が提供されているが、新規の受付が終了すると、新たに自主避難を希望する人はみずから家賃を負担せねばならず、事実上、避難・移住の選択肢を閉ざされることになる。
 この決定を受け、受け入れ支援をしている市民団体からは、受付の延長を求める声があいついでいる。


■支援法の理念と逆行

 「避難の権利を確立しようとしている矢先に、新規の受付を打ち切るなんて、恣意的な決定かと疑ってしまいます」と憤るのは、子どもたちを放射能から守る福島ネットワークの中手聖一さんだ。


(子どもたちを放射能から守る福島ネットワーク 中手聖一さん)



 中手さんがいう「避難の権利」とは、今年6月に成立した「原発事故子ども・被災者支援法」(以下、支援法)にうたわれている基本理念のこと。
 支援法は、原子力を推進してきたことで起こった原発事故に対する国の責任を認め、汚染地域から避難する人も、とどまる人も、ともにその権利を尊重し、平等に支援しようという画期的な法律だ。

 しかし、政策の具体的な中身が決定するのはこれからで、今まさに被災者の声を聞きながらひとつひとつの政策を詰め、予算取りをしている最中なのだ。

 「打ち切りは、あきらかに支援法の理念と逆行しています。せめて、支援法の枠組みで住宅支援ができるようになるまで、災害救助法のもとで住宅支援を続けてほしいのです」(中手さん)


■災害の大きさに見合った臨機応変な対応を

 本来、「災害救助法」のもとでの住宅支援は、災害が発生した地域での応急仮設住宅の設置などが原則で、被災した「都道府県知事」が救助主体となって実施し、国が経費を負担する形をとっている。
 しかし、東日本大震災においては、津波や原発事故等で被災地域に残れない人も多かったため、特別措置として、県外で民間借り上げ住宅等に入居した被災者も対象に含むことになったという。
(参考資料はこちら http://www.rieti.go.jp/jp/publications/dp/12j011.pdf http://www.rieti.go.jp/jp/publications/dp/12j011.pdf

 災害救助法は、長く支援するための法律ではなく、あくまでも緊急的措置を行うための法律であることに違いはない。しかし、阪神淡路大震災のときも5年間適用されていたし、災害の規模や事情によって必要な支援は大きく変わってくるため、臨機応変な対応が求められる。  
 今回の原発事故は、私たちが経験したことのない未曾有の大惨事。しかも原発事故はまだ収束の兆しすらないことを考えると、震災から2年足らずで早々に新規の受付をストップしてしまうのは、あまりにも性急ではないだろうか。

 
■帰還をうながしたい政府と県の意向?

 いったい、どのような経緯で打ち切りの決定がなされたのか――。
 福島県に問い合わせてみると、次のような答えが返ってきた。

「今回の打ち切りは、厚生労働省の意向によるものです。昨年に比べて県外への避難者数は減少しており、県内に戻る方がふえているのが打ち切りの理由です」

 一方、厚生労働省は次のようにいう。
「担当者からは、福島県からの要請だと聞いています。打ち切らないでほしいという要望はあるようですが、余計な混乱を招きますので、いったん決定されたことが覆されることはないと思います」

  責任のなすり合いのように思えるが、「帰還をうながしたい」「県内にとどめておきたい」という政府と県の意向が一致した結果ということなのだろうか。
 福島県は、県外での借り上げ住宅の新規受付終了を発表すると同時に、県内避難者への新たな住宅支援を発表し、帰還者に対する応急仮設住宅の斡旋なども引き続き行っている旨を強くアピールしている。


■これから移住する人の受け皿が必要

 前出の中手さんはいう。

 「たしかに、数のうえでは昨年に比べて避難者の数は減っています。しかし、去年までは母子避難者が圧倒的に多かったのですが、今年は家族で“移住”する人がふえているのです」


    (県外避難者の状況)※クリックすると拡大します。

 中手さん自身も、今年4月に妻子を北海道に移住させ、自身は7月に福島市から家族のもとに合流した。現在、中手さんが移住の相談を受けている家族のなかにも、仕事の目処がつく来年3月以降に北海道への移住を計画している人もいて、12月末で新規の受付が終了するとなると、文字通り「たのみの綱」が断ち切られる形となる。

 最近移住する人のなかには、震災後すぐには動けなかったけれど、子どもが学校を卒業したり、仕事の引き継ぎをすませたりして、やっと移住する準備が整ったという人もいる。 
 また、除染にのぞみをかけていたが、いっこうに進まないだけでなく、除染をしてもすぐに線量が高くなってしまう現実を見て、やはりここでは安心して住めないと判断した人もいるようだ。

 今年9月に福島市が行った意識調査によると、放射能への懸念から34%の人が「今でも避難したい」http://www.asahi.com/national/update/0914/TKY201209140652.html)と考えているという。
 今後、もしこの人たちが避難・移住を決意したときに、受け皿は用意できるのか――。
 

 「現在、支援法の枠組みのもとで、避難者に対する支援の具体策が検討されています。しかし、支援を受けられる対象地域などの決定に時間がかかっており、施行されるにはまだまだ時間がかかります。今、避難の道が途切れてしまうと、避難した人と、とどまっている人の溝が、ますます深まってしまうのです」(中手さん)
 
 復興予算をまったく関係のないことに使うのなら、ぜひ被災者に対する住宅支援にも充ててもらいたい。
 
支援法について取り組んでいる日弁連も、すでに会長声明を発表し、自主避難者への借り上げ住宅制度の適用継続及び拡充を求めている。 原発被災者の受け入れ支援をしている市民団体なども今後、住宅支援の継続を求めて要請を出すという。
 私たちも、これを後押ししていきたい。


(ママレボ編集チーム 和田秀子)

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