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2014年5月30日金曜日

第6回 環境省専門家会議 傍聴レポート


  遅くなりましたが、520()に開かれた6回「東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う住民の健康管理のあり方に対する専門家会議」の傍聴レポートをお届けします。

不確かな“実測値”を重視

 まずはじめに、もう一度、この専門家会議の目的を確認しておきたいと思います。この専門家会議は、「子ども被災者支援法」の第十三条に定められている国は放射線による健康への影響に関する調査等に関し、必要な施策を講ずること」という条文に従って、以下の点を検討をするための専門家会議です。




 第6回をむかえ、検討事項の(1)被ばく線量把握・評価に関すること」のまとめが、出されようとしています。

 が、結論から言うと、いわき・川俣・飯舘村で321日に測定した、わずか1080人の甲状腺サーべーメーターの実測値だけを重視して、「甲状腺の初期被ばくは(ヨウ素剤を配布する必要のない)50ミリシーベルト以下だった」=「甲状腺がんになるほどの数値ではない」と結論づけようとしています。
 専門家委員会が現在まとめている「住民の被ばく線量把握・評価について」(まとめ)の骨子案を見ると、実測値のデータを「Best  Dose  Data(ベストドーズデータ)」と呼び、環境モニタリングのデータを「NextBestDate(ネクスト・ベストデータ)」、大気拡散シミュレーションなどに基づくデータを「Helpful Date(ヘルプフルデータ)」などと呼んで、実測値をもっとも重視していることがわかります。



 この記述に関して春日文子委員(日本学術会議・副会長)からは、それぞれのデータに強み、弱みがあるのに、こうふうに表記されてしまうと、実測値がベストなんだという誤解を与えかねない。それぞれのデータの限界を、科学的にこの専門家会議で評価したのであって、実測値がベストであるという結論を導いたとは理解しておりません」と、表記に関して疑問が投げかけられました。

 しかしこれに対して、本間俊充委員(日本原子力研究開発機構・安全研究センター長)や中村尚司委員(東北大学・名誉教授)からは、「ベストなデータは実測データに基づくというのが基本。不確実性はあるが実測値にかなうものはない」として、春日委員の意見に反論。長瀧重信座長(長崎大学・名誉教授)も、「不確実なデータばかり集めても仕方ない。春日委員は抵抗があるとのことだが、専門家の意見として受け止めるべきではないか」と、大きく表記を変えるつもりがないことを明らかにしました。

 本来ならばもちろん、不確実性の高いシミュレーションの数値よりも、実測値が正確であることは言うまでもありません。それくらい素人でもわかります。しかし、この実測値に関しては、簡易サーべーメーターで測定されたことや、事故から10日以上もたっていたこと、測定した人数が少なかったことなどにより、実測値といえども「不確実性が高い」と言われています。だからこそ春日委員の言うように、「実測値が絶対なのだ」と国民に誤解されないよう慎重に表記を考えるべきだろうと思うのですが、そうした意見は考慮されませんでした。委員のみなさんは、いつも、ふたことめには「リスクコミュニケーションが大事」とおっしゃるわりには、リスクコミュニケーション能力がありません。

■ゼロ線量が“しきい値”?

 次に、参考人として呼ばれた甲斐晃太郎氏(放射線影響研究所・疫学部長)が、原爆被ばく者の死亡率に関するデータを元に「放射線リスクの線量反応関係」と、「遺伝的影響」について解説しました。



 じつは、前々回の専門家会議で招かれた﨑山比早子氏元放射線医学総合研究所・主任研究官/医学博士)が、小笹氏が書いたこの論文を用いて「放射線が安全なのは放射線がゼロのときのみ」と発言し、委員らから「論文の読みまちがいだ」という反論を受けたため、今回は、論文の著者である小笹氏本人が呼ばれたというわけです。

 小笹氏は、「(﨑山氏のような)誤解を招きやすいのだが、低線量域においてはきわめて不確実性が高いので、0.1グレイ以下の被ばくでは不確実である、としか申し上げられない。そもそも原爆被ばく者の調査が始まったころは、低線量被ばくのリスクを想定していなかったので、評価もあいまいだ」と、奥歯にものがはさまったような、たいへんわかりづらい説明をされ、結果的にはやんわりと崎山氏の見解を否定する形となりました。
 
 しかし、放医研のホームページには要約文がアップされており、それには「定型的な線量閾値解析(線量反応に関する近似直線モデル)では閾値は示されず、ゼロ線量が最良の閾値推定値であった。」と書かれています。




 この表記と、﨑山氏が言う「放射線が安全なのは放射線がゼロのときのみ」のとらえ方に、どれほどの違いがあるのか素人である私にはわかりません。(同じように感じます)

 また、遺伝的影響についても、同じく原爆被ばく者のデータを用いて、固形がんや白血病、その他疾患においても有意な増加は見られないと発表しました。
 しかしながら、チェルノブイリ原発事故の影響について書かれた「ウクライナレポート」には、低線量被ばくでのさまざまな影響が記されています。
「低線量被ばくの評価があいまい」とされている広島・長崎の被ばく者のデータばかりを参考にするのではなく、なぜウクライナレポートなども参考にして議論しないのか……、疑問を感じます。


ICRP勧告ですら十分に守られていない

 そして次に、甲斐倫明氏(ICRP4専門委員会委員)が「事故後の対応に関するICRPの考え方」について発表しました。
 このなかで甲斐氏は、ICRPは、原爆被爆者や医療被ばくのデータなどを元に、「いくらかの線量であっても人体への影響は線量の累積に比例すると考えることがもっとも控えめな仮定だと考えており、そのため“しきい値”なしという前提に立って防護するように提言を出してきた」と説明。 とはいっても、放射線を避けることで生じる社会的リスクもあるので、すべてのリスクを包括的に考えたときに妥当だと思われる目標値を示していること。とくに原発事故が起きた緊急時は、放射線を管理できる状態ではないため、参考レベルとして20100ミリシーベルト、緊急時がおさまったら201ミリシーベルトと、放射線が人体に及ぼす確定的影響を軽減することを第一として、時間の経過とともに目標を変えていっていること。
 しかしながら、20ミリシーベルトというのは本来、職業人の線量限度として決められたものなので、公衆被ばくとしては年間1ミリシーベルトを目指していること。よって、人々が「年間1ミリシーベルト」を求めるのは当たり前であって、政府はどの時点で1ミリを達成するのかをわかりやすく伝える必要があること、などを述べました。

 ICRPについては、原子力推進側に立って基準を定めているなどとして批判もありますが、現状において日本政府は、ICRPの勧告すら十分に守れていないのが現状だと再認識させられました。

■鼻血は被ばくと関係ない、と断言

 最後に、ここ最近世間をにぎわしていた漫画『美味しんぼ』の鼻血問題についても放射性物質対策に関する不安の声について」というペーパーが配られ、各委員からは次々と鼻血を否定する意見が出されました。

「鼻血が出るのは34グレイ(34シーベルト)の放射線を浴びて幹細胞が少なくなり、血小板が減少したときだけだ」(鈴木委員)
「福島県民健康調査でも血小板が減っているというデータは出ていない。福島県の医者にも話を聞いたが、患者から鼻血が出たという話は聞いたことがないらしい」(清水委員)

「ホットパーティクルが鼻腔粘膜に付着して鼻血が出ているのではないかという考え方もあるが、鼻血が出るには少なくとも数十グレイ以上の被ばくする必要がある。しかしモニタリングデータからは、そのような数値のホットパーティクルが存在するとは思えない」(伴委員)
 そして最後に長瀧座長がダメ押しで、「専門家会議としては、福島の放射線量で鼻血は出ない」と結論づけ、「被災者に対し、精神的にな悪影響を与えないようにすることも、この専門家会議の役目。そのためにリスクコミュニケーションをしっかりとっていきたい」と、述べて終了しました。

 結局は、不確かなことが多い低線量被ばくの影響を、調査せずにうやむやにしたいのだと感じます。
 それにしても、この会議のもっとも重要な「健康管理のあり方」については、いったいいつから話し合われるのでしょうか。「被ばくはたいしたことない=健康被害はない」という布石は、着々と打たれ続けています。

ママレボ@和田
※筆者の理解不足の点も多々あると思うので、詳細は動画をご覧ください。資料もこちらにアップされています。

Our-Planet-TV
第6回 住民の健康管理のあり方に関する専門家会議」
http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/1780






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