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2014年12月2日火曜日

松阪市長 山中光茂さんインタビュー 「あたり前の幸せ」を守りたい

 12月下旬発行予定の「ママレボ 年末・年始特大号」の巻頭インタビューで、松阪市長の山中光茂さんをインタビューさせていただきました。
 とても大切な内容なので、ひとあし早く、ブログでも公開させていただきます。

 おりしも今日は、衆議院選挙の公示日。
 安倍政権は、「アベノミクス解散」などと言っていますが、争点はいくつもあります。
山中市長のお話のテーマとなっている「集団的自衛権」にはじまり、「秘密保護法」「原発の再稼働」……。

 私たちひとりひとりが、「あたり前の幸せ」を守るために、いま何ができるか――。
そんなことを考えながら、一票を投じましょう。

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 安倍内閣は2014年7月に、「集団的自衛権」の行使を認めるとの、憲法解釈を変える閣議決定を行いました。
これを憲法違反だとして、市民団体「ピースウィング」を立ちあげ、安倍政権を集団提訴する準備を進めているのが、三重県松阪市長の山中光茂さんです。
そんな山中市長に、「あたり前の幸せ」を守るために、今私たちがすべきことについて、おうかがいしました。

   (ママレボ出版局・和田秀子)



■紛争や飢餓は、政治家の選択のまちがいによって引き起こされてきた

 松阪市長の私が、なぜ安倍政権を提訴しようとしているのか。
 それは、集団的自衛権が認められてしまうと、今、私たちが手にしている「あたり前の幸せ」が失われてしまうかもしれないからです。
 ひとたび戦争になれば、あたり前に地域で子育てができる幸せ、ものを食べられる幸せ、家族で暮らせる幸せ、そのすべて奪われてしまいます。

 私は、2007年に松阪市長として初当選させていただいて以来、「あたり前の幸せを、みんなで考えよう」ということを市政のテーマとして取り組んできました。
 というのも、私は市長になる前、医師としてアフリカなどの途上国で支援活動をしていました。そのなかで、途上国で起きている紛争や飢餓などは、すべて政治の失敗を通じて生まれてきていると実感したからです。

 幸せなことに、日本は戦後70年間、戦争をせずにすんでいます。その結果、私たちは毎日、家族や友人、たいせつな人たちと、あたり前だけどかけがえのない平穏な暮らしを送ることができています。
 しかし、政治家が選択をまちがい、ひとたび争いが起こると、「あたり前の幸せ」は、あっというまに失われてしまうのです。

 だからこそ、地域の安心・安全を守る立場にある首長(くびちょう)が、今回の集団的自衛権の問題に対して発言したり、行動したりしないのは無責任だと思って、声を上げることにしました。と同時に、私も一市民として、多くの方々と、この問題を議論する場がほしい。松阪市だけではなく、日本全国に活動を広げ、議論していきたいという思いから、「ピースウィング」という市民団体を、ことし7月に立ちあげたのです。

■「たかが一内閣」の決定で、決まってしまう恐ろしさ

 今回の閣議決定は、ふたつの視点から見て問題があります。
 ひとつは、もっとも根本的かつ、重大な問題です。
 憲法は、日本の最高法規です。その憲法の下位にある、「たかが一内閣」の「たかが一総理大臣」が、国民の議論や憲法改正手続きをへずに、「たかが閣議決定」によって、集団的自衛権の行使を認めてしまったという問題です。

 ここで、あえて「たかが」ということばを使ったのは、内閣も総理大臣も、すべて憲法の下に位置し、憲法によって縛られている立場だということを強調したかったからです。
 もともと憲法は、「権力者は暴走しかねない。だから憲法によって抑制しよう」という「立憲主義」という考え方のもとに作られたものです。
 ですから、もし安倍政権が集団的自衛権を行使できる国にしたいのであれば、きちんと憲法改正の手続きを踏む必要があるのです。
 しかし、そんな手続きはすっとばしてしまった。これは、明らかに憲法違反であるといわざるをえません。
もともと改憲に賛成であった憲法学者でさえも、今回の安倍政権のやり方には反対しているのです。

■集団的自衛権は、他国の戦争に加担すること

 ふたつめは、集団的自衛権そのものの問題です。
 集団的自衛権というのは、個別的自衛権(自分の国が攻撃を受けた場合に認められている、武力行使の権利)とは異なり、他国の戦争に加担する権利なのです。

 たとえば、今アメリカはシリアを空爆していますよね。これは、アメリカのジャーナリストふたりが、シリアやイラクで活動するイスラム国のメンバーによって殺害されたからという理由によるもので、個別的自衛権の行使だとアメリカは主張しています。

 しかし、シリア政府はアメリカに空爆を要求したわけではありませんし、国連決議に基づいたものでもありません。あくまでも、アメリカ一国の価値観に基づいた空爆なのです。
 しかし、日本が集団的自衛権の行使に踏み切った場合、こうした一国の価値観に基づいた戦争に加担する可能性が出てくるのです。
 安倍首相は、「中東へ自衛隊を派遣することはない」と述べていますが、なんの拘束力もありません。
 時の政権が、「イラクの空爆に参加しないと日本の国益を損ねる」といえば、いつでも日本は、他国の戦争に加担できるようになってしまったのです。これまでは、憲法によって抑制されていた。そこに意味があったのです。 
 ちなみに、安倍政権が発表した【注】15の事例を見るかぎり、ほとんど個別的自衛権で片づけられるものです。
 個別的自衛権は、憲法でも認められているので、わざわざ集団的自衛権をもち出すまでもありません。

 では、なぜ安倍政権は、憲法をねじ曲げてまで集団的自衛権の行使をしたいのでしょうか。
 それは、アメリカやNATO(北大西洋条約機構)から軍事的貢献を求められていることと、安倍首相自身が、在任中に軍事貢献ができる国にして、いわゆる「積極的平和主義」を実現させたいという思惑があるのだと思います。

 安倍首相は、以前インターネットの番組で、「日本国憲法は、アメリカから押し付けられた、みっともない憲法だ」と発言しておられましたから、そんな「みっともない憲法」は、さっさと改正したいのでしょう。しかし、それには時間がかかってしまうから、先に集団的自衛権だけでも閣議決定してしまおうと考えたのだと思います。

■武力で平和は守れない

 集団的自衛権や憲法9条の話をすると、必ずといっていいほどいただく質問があります。
 そのひとつが、「北朝鮮や中国が攻めてきたらどうするんだ。武器を持って守らないといけないのではないか」という質問です。 でも、考えてみてほしいのです。なぜ、攻めてくるのでしょうか? こちらに攻められる要因がなければ、攻めてくることはありません。

 日本は戦後70年間、憲法9条のもとで武力による紛争解決を放棄し、平和主義を徹底させた。だから、他国に攻める口実を与えなかったのです。だからこそ、平和が守られたのではないでしょうか。
 もちろん、アメリカとの安全保障条約があったから、という側面は否定しません。しかし、相手が戦争を起こす理由をつくらなかったことが、平和を保てた一番の要因だと思います。
 アフリカへ医療支援をしに行っていた私の経験から言わせていただくと、ピストルを持った相手の前に、ピストルを持って出て行くほうが危ないのです。対話の余地なく撃たれてしまいますから。
 武器は、お互いに持ち合うから危険度が高まるのです。武器に武器で対抗しようとした歴史が、世界の戦争の歴史であり、さまざまな争いが生まれた原因なのです。だから、武器を持ったからといって抑止にはつながりません。

私がこう話すと、「そんなの理想論だよ」と言う方がいますが、私から言わせれば、「武器で平和が守られる」と思っている人のほうが、理想論者だと思います。
 その証拠に、日本人は、どこの国に行っても、「平和主義の国だ」と認識されていますので、ねらわれるリスクも低い。武器も持たず、純粋に平和的な支援活動に来ている人間を、ねらう人はほとんどいませんからね。

 もうひとつ、よくいただくのは、「日本人だけ血を流さないでいいのか」という質問です。
 私は、なにも日本人だけが血を流さなければいいといっているわけではありません。戦争になって、まっ先に戦地に行くのは自衛隊員の方々ですが、彼らは命を落とす覚悟はもっています。 誤解を恐れずにいえば、任務上、命を落とすということが、現実にありうることを否定はしません。ただ、たいせつな一人の命を意味のない戦争に巻き込まれて、意味なく落としてほしくないのです。それは、どの国の方だって同じです。

 意味もなく互いに銃を突きつけあい、殺しあうことほど無益なことはないのです。
 それよりも、日本はせっかく戦後70年もの間、平和を守り、国際社会からも評価を受けているのですから、唯一の平和国として、また唯一の被爆国としてその立場を生かした貢献をしたほうが、ずっと意義があるはずです。


■私たちが向かうべき3・11後の世界

 あの未曾有(みぞう)の東日本大震災と原発事故が起こって、私たちは、今手にしている「あたり前の幸せ」が、いかにたいせつであるかを、思い知ったのではないでしょうか。

 しかし現在、安倍政権が進もうとしている方向は真逆のように感じます。経済発展や株価の上昇といったことも、もちろんだいじかもしれません。が、それ以上に私たちは、「あたり前の幸せ」のたいせつさを学んだはずです。

そして、多くの国民が、安倍政権が進もうとしている方向性に疑問をもっている。しかし、残念ながらその受け皿になる政党がありません。
 そんな時代だからこそ、私たち市民の活動がたいせつになってくる。

 日本では、「平和を守ろう」なんていうと、なにかおかしな人のように思われてしまいます。でも、平和って、みんなで必死に守らないと、すぐに失われてしまうものなんですよね。
 だから今こそ、恥ずかしがらずに、「平和を守ろう」と声をあげませんか?
ときに、テレビでインテリ風の学者が、「平和を守るには武力が必要」なんて言っているのを耳にします。でも、そんな発言は、どうぞうのみにしないで。
平和を守るのに武力はいりません。私たちひとりひとりが自信をもって、そう子どもたちに伝えていきましょう!


[] 政府が、どのような場合に集団的自衛権を行使できるかを示した15の事例。「離島等における不法行為への対処」や「領域国の同意に基づく邦人救出」などがある。
 
Profile
やまなか・みつしげ
松阪市長/医師
33歳という若さで、2007年に三重県松阪市長に初当選。現在2期目。ことし7月、集団的自衛権に反対する「ピースウィング」という市民団体を立ちあげる。
 

「ピースウィング」では、ただ今サポーター会員および、原告団を募集しています。お申し込みは、公式サイトまで。

ピースウィング公式HP  http://www.peacewing.jp/




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