創価大学教職研究科教授・桐山信一さんが、ママレボに貴重な考察を寄せてくださいました。
ご紹介させていただきます。
ご紹介させていただきます。
桐山さんが、独自に作成された甲状腺がん発生数の地図を見てみると、セシウム沈着地図と似通っていることが見えてきました。
************
福島甲状腺検査で104人が悪性!! 原発放射能と関係は?
-理科教員はどう見るか、生徒にどう学ばせるか?-
福島甲状腺検査で104人が悪性!! 原発放射能と関係は?
-理科教員はどう見るか、生徒にどう学ばせるか?-
創価大学教職研究科教授 桐山信一
原発事故後の3年間にわたる甲状腺先行検査が終了し、平成 26年6月30付で県民健康調査「甲状腺検査(先行検査)」結果概要暫定版が公開された。
検査結果概要暫定版は第16 回福島県「県民健康調査」検討委員会(平成26年8月24日開催)資料2-1であり、下記のURLより入手できる。
検査結果概要暫定版によると、受診者はのべ296,026人であり、その99.9%である295,689人の結果が確定している。
2,237人がB判定となって細胞診を受診し、男子36人、女子68人の計104人が悪性(疑いも含む)と診断された。
このなかで手術は58人が実施し、57人が甲状腺がん(乳頭がん55人、低分化がん2人)、1人が良性結節であった。
これらの数値にはどのような意味があるのか。関係者には様々に関心が持たれているのではないだろうか。
ここでは、悪性に地域差がみられるのかということに絞って考えてみたい。悪性数のポワッソン分布による検定、悪性地域分布と放射能沈着量との相関、甲状腺等価線量の推定などは別の機会があれば公表してみたい。
チェルノブイリを知っている人なら、悪性の発生と原発事故による放射能汚染の関連を考えるのは自然な思考である。原発事故が悪性の原因だということなら、どのような傾向が現れるか。
原発に近い地域ほど高い発生となるなどの地域差が見られるはずである。
しかし、先行検査というスクリーニングによる早期発見であるならば、地域差が見られることは考えにくい。
結果概要暫定版の表9(下記参照)によると、人口10万人あたりの「悪性ないし悪性疑い」者率は、避難区域33.5人、浜通り35.3人、中通り36.4人、会津地方27.7人であり、朝日デジタルの記事「甲状腺がん、疑い含め104人 福島の子供30万人調査」(大岩ゆり、2014年8月24日)に図が示されている。(図A-1)が、記事より抜粋した図である。
(表9)
(図A-1) 朝日デジタルより抜粋
結果概要暫定版では、悪性の発生とその地域について次のように考察している。
・・・一次検査受診者 295,689 人を地域別に分析した結果、・・・(中略)・・・「悪性ないし悪性疑い」者率は「避難区域等 13 市町村」、「中通り」、「浜通り」はほぼ同様であったが、「会津地方」でやや低めであった。会津地方では二次検査完了者の割合が他の地域に比べて低めであり、その影響が考えられる。
原発から遠い会津地方に悪性者率が低いことを認めるものの、悪性の発生に地域差はないとの見解にみえる。つまり、原発事故と甲状腺癌発生には関係がないという主張である。
ここでは、科学教育の基本に立ちかえり、事象を異なった視点からみるとどう見えるかを考えてみる。これは、学校教育で生徒にもっとも培いたい科学的リテラシーの一つである。
「4地域よりもう少し細かく市町村を単位に集計して図を作ると、どのような傾向がみえてくるだろうか?」と問題を立てる。
(図A-2)は筆者が検査結果概要暫定版からデータを拾って市町村別に集計したものである。
(図A-2)
中高生ならできるデータ処理である。発生の度合いは、その市町村で悪性が出た数Nと、受診者数に対する悪性の数の割合rの2つで判断することができる。図の数値はNを示す。数値のない市町村では、悪性の発生は現在0である。色は次のようなrの区分を示している。
赤:rが0.05%以上、黄:r が0.02~0.05%まで、青:rが0ではないが0.02%未満
悪性発生度はNとrの両方で決まる。Nが大きくr値が高い市町村は発生度が高いと考えてよい。Nとrの両方をみると次のような傾向が見える。
・総じて原発に近い東部に多く発生。
・原発-二本松市・福島市を結ぶラインに多く発生。
また、原発の南側60kmのいわき市(r=0.04)、原発から南西80kmの白河市(r=0.06)にも多く発生していることがわかる。
会津地方はほとんどが発生数0であるから、図A-1で会津地方が10万人あたり27.7となるのは、会津若松市の悪性数5が効いていることがわかるだろう。ただし、会津地方の2次検査はまだ続いているので、今後悪性が出て27.7より増える可能性はある。
以上のように集計方法を変えてみると、悪性の発生率に地域差が見られるとの仮説も成り立つのではないか。
教育の場では、教師は事実をいろいろな視点から多角的に見て検討させなければならない。また、生徒はそういう姿勢を身に付けなければならない。そうしなければ、自分で判断して結論を出し行動する生活者になることはできない。
筆者は過去に高校で物理を教え、現在は教職大学院・教育学部で理科教育などを担当している。「福島における甲状腺癌発生と原発放射能の関係をどう考えるか」というテーマは、まさに今日的な国民的課題であり、様々な科学的判断をともなう問題でもある。筆者のブログもできるだけ多くの方に、とりわけ理科や保健の先生方に見ていただきたい。そして、広く学校教育の場で生徒に紹介していただき、理科教育などの題材として取り上げていただきたいと願う。原発を考える題材にしていただきたい。
参考)桐山研究室公式HP: http://home.soka.ac.jp/~kiriyama/
0 件のコメント:
コメントを投稿