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2014年9月2日火曜日

傍聴レポート: 第16回福島県民健康調査検討委員会

「第16回福島県民健康調査検討委員会」が8月24日、福島市で開かれました。こちらの傍聴レポートをお届けします。

まず、心配されている小児甲状腺がんですが、すでに報道されているように、前回の89人から15名増えて、悪性ないし悪性疑いが104名という結果でした。104名のうち、すでに手術を行っているのは58名。その内訳等は以下の通りです。





 この数字の分析については、OurPlanetTVが、岡山大学の津田教授の考察も交えて紹介されていますので、そちらをご覧ください。

 その他の新聞報道などでは、「がんの発症に地域差はなかった」「被ばくと甲状腺がんの因果関係は考えにくい」といったコメントばかりが強調されていますが、現段階で検討委員会は、そうはっきり結論付けたわけではありません。

 検討委員会としては、今後、分析に必要なデータの提出を県立医大に求め、それをもとに分析すると言っています。
 もちろん、福島県や県立医大は、どうあっても被ばくの影響を認めたくないでしょう。だからこそ今後、いかに検討委員会が、福島県と県立医大に働きかけて、分析に必要なデータが導き出せるか、にかかっていると言えます。


■検討委員会をバカにしきっている医大

 まず、この日の検討委員会では、6月に開かれた「第3回甲状腺評価部会」で議論された“過剰診療”(=手術しなくてもいい患者まで手術しているのではないか?)の問題について、多くの委員から意見や要望が出されました。

 春日文子委員(日本学術会議)からは、「それぞれの患者が、どういう診断基準で手術になったのかということを具体的にリストアップしてほしい」という要望が。
 さらに清水一雄委員からは、「リンパ節転移や遠隔転移などのパーセンテージを公開してもらえると、かなり(過剰診療か否かが)わかるはず」という意見が出ました。

 しかし、こうした委員からの要望に対し、福島県立医大の鈴木眞一氏からは、「データは誰のものなのかということや、どういうデータが必要なのかなど、まず検討委員会で議論してもらいたい。あくまでも患者の個人情報なので、検討委員会の議論のなかで出た答えをふまえて、我々のほうで提出できるものを判断させていただく」と、いった趣旨のことを述べ、あいかわらずデータ開示を否定しました。


 さらにおかしなことに鈴木氏は、検討委員会では公表しなかった甲状腺がんの子どもの手術症例を、検討委員会の4日後に開かれた日本癌治療学会では、詳細に発表しているのです。

 それについての記事がこちらです。


 このなかで鈴木氏は、これまで手術した54人について、8割超の45人は腫瘍の大きさが10ミリ超かリンパ節や他の臓器などへの転移があり、診断基準では手術するレベルだった。2人が肺にがんが転移していた。」と、検討委員会への報告以上に詳細に述べています。

 検討委員会では報告できないのに、なぜ日本癌治療学会では発表するのか――。
 まさに、データの私物化です。

 鈴木氏の対応は、検討委員会の存在意義をないがしろにしているばかりか、福島県民をも侮辱しているのではないでしょうか。


■子どもの健康を守るのか、それとも被ばくとの因果関係を解明するのか

 検討委員会が、本来の役目を十分に果たせていないことを受け、この日、星座長からは「甲状腺検査に関する論点整理」(座長素案)というペーパーが配られました。

 このなかには、検討委員会として、これまでの甲状腺検査のあり方を検証し、集まったデータをどう分析・評価し、被ばくの影響のあるなしなども含めて、どのような見解を示していくのか等について、今後、議論すべき課題があげられていました。

 星座長はこのなかで、「そもそもこの甲状腺検査は、子どもの健康を守るためのものなのか、それとも被ばくの影響があるかないかを、はっきりさせるためのものなのか?」と、いった投げかけをしました。正直、「今ごろ、そんな議論なの?」と、思わずにはいられませんでしたが、委員の意見は、真っ二つに分かれました。

 「疫学調査と臨床は同時に成りたたない。まず、子どもの健康を守ることを重視すべき」
(清水一雄委員・日本医科大学名誉教授/稲葉俊哉委員・広島大学教授)

「歴史に残るほどの大事故が起きて、私たちは今も被ばくしているのだから、被ばくとの因果関係をスルーするなんてあり得ない。子どもの健康を守ることはもちろんだが、データを後世に残すこともだいじな義務だ」
(清水修二副座長・福島大学特任教授/児玉和紀委員・放射線影響研究所)

  こうしたふたつの意見に対して、春日文子委員(日本学術会議)からは、
「子どもの健康を守るということにつきると思うが、得られたデータから、ある程度、疫学的な予測をつけることは可能ではないか」という見解が示されました。

 しかし、明石真言委員(放射線医学総合研究所)からは、「外部被ばく線量だけでは(因果関係が)わからない。線量についての不確定要素が多すぎる。現状のデータでは、疫学的にどこまで使えるかというと、限界があると思う」という意見が。つまり、そもそも現在のデータでは、疫学として役に立たないということのようです。

 こういう議論を聞いていて、素朴な疑問がわきました。

なぜ、福島の子どもたちは、甲状腺検査を受けねばならなくなったのでしょうか?
原発事故が起きて、被ばくをしてしまったからではないでしょうか?

 それなのに、被ばくの影響かどうかを調査しないなんて、まったくナンセンスです。
がんが見つかった場合、それが「被ばくの可能性かもしれない」と、不安になるのは当たり前のこと。現在、医療費が無料なのは18歳までで、19歳以上は、もし甲状腺がんになっても治療費を負担しなければなりません。先々の保障のことなどを考えると、きちんと因果関係を明らかにしてもらわなければ困るのではないでしょうか。

 また、いまさら「この調査が、疫学的にどこまで使えるのか疑問がある」と言われても、
最初からきちんとデザインしておけよ、と文句を言いたくなってしまいます。いまだ、基本調査の回収率は、たった26%なのです。

 委員のなかからも、以前から、「回答率を上げるためには、一軒一軒、訪問しなければならない。最低でも60%は必要」(津金昌一郎委員・国立がんセンター)「市町村検診に組み込めば、回答率が上がるのでは」(井坂晶委員/双葉郡医師会)といった、回収率アップのためのアドバイスが出ていましたが、こうした意見が取り入れられることはありませんでした。
 福島県や医大は、ほんとうにヤル気があるのでしょうか?

■評価に向けての議論は、これから

 結局、この日の検討委員会では、星座長が示した論点にもとづいて、今後話し合いをするために議論の場をもつということが決定しました。

春日委員から、「県の職員がいない場で、検討委員だけで議論したい」というリクエストがあり、県がこれを承認。傍聴や取材はオープンにして、近々議論の場がもたれるということです。
また、これとは別に、なんらかの形で県民の意見を聞く場も設けたいとのこと。

 以前、山下俊一氏が座長だったときに、委員会の前に開いている「秘密会」が問題となって以来、この委員会は、開催日当日に県から資料が配られ、ぶっつけ本番で議論していました。
そのため、表面的な議論しかできず、なかなかデータの分析や委員同士の意思疎通をはかるのがむずかしい状況だったとのこと。

 これを機に、徹底的に議論し、早く委員としての見解をまとめて、調査のあり方も含めた改善点を示してほしいと思います。またその際には、かならず県民の意見を取り入れること。
 そうしなければ、永遠に信頼の回復はあり得ません。

ママレボ@和田


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