■20ミリシーベルトの違法性を問う初の訴訟
年間20ミリシーベルトの基準による避難解除は違法だとして、南相馬市の特定避難勧奨地点に指定されていた世帯を含む住民132世帯534名が4月17日、国(原子力災害現地対策本部)に解除の取り消しや精神的苦痛に対する慰謝料ひとり10万円の支払いなどを求めて東京地裁に提訴した。
東京地裁に訴状を提出しに行く南相馬特定避難勧奨地点の住民たち |
提訴に先立ち、経済産業省前で住民たちは次のような訴えを行った。
訴状提出に先駆け、経産省前で最後の訴えを行った。
(左・菅野秀一さん/右・藤原保正さん)
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(原告代表・菅野秀一さん/74歳)
「チェルノブイリ原発事故の被害にあったベラルーシやウクライナでは、法律で妊婦や子どもには年間0.5ミリシーベルトまでと定めているのに、日本はそれよりはるかに高い基準で解除するなんて恥ずかしくないのか。今、我々が立ち上がらなければ、将来、子や孫に健康被害が起こったとき顔向けができない。強引に解除するなら、何かあったときに補償が受けられるように被ばく者手帳を発行してほしいと再三訴えたが聞き入れてもらえない」(藤原保正さん/66歳)
国は昨年12月28日に、ほとんどの住民が「時期尚早」として解除に反対するなか、「年間20ミリシーベルトを下回った」「説明はつくした」として一方的に避難指示解除に踏み切った。
原告代表・菅野秀一さんによると、勧奨地点に指定されたお宅で避難をしなかったのは、馬を飼っている1軒だけ。現在でも8割以上が戻っておらず、とくに子どものいる家庭で戻った方はいないという。
■分断を乗り越えて、住民が一致団結の訴え
提訴が行われたあとの記者会見で、担当の河崎健一郎弁護士は、今回の提訴の意義を次のように述べた。
「低線量被ばくについては、ここまでなら安全という閾値はないというのが国際的なコンセンサスです。国内の法令もすべて、ICRP(国際放射線防護委員会)の基準に基づいて、一般公衆の被ばく線量年間1ミリシーベルトを基準に定められています。20ミリシーベルトはこれを大きく上回っており、この数値を避難や帰還の基準にすることは“違法”であるということを、初めて司法の場で問うことに大きな意義があります。この訴訟を通して、避難指示解除についての問題点や、避難政策の在り方自体も問い直していきたい」
河崎弁護士によると、今回、提訴に踏み切った132世帯の内訳は、勧奨地点に指定されている世帯が63世帯、指定外世帯は69世帯だという。
指定外世帯も訴訟に加わることになった理由は、「補償の有無で地域に分断が起こってはいけない」ということで、指定外世帯がまとまってADR(原子力損害賠償紛争解決センター)に申し立てを行い、これまで指定世帯と同等の賠償を受けてきたからだ。
そもそも、年間20ミリシーベルトを超えそうなほど放射線量が高いのは、勧奨地点に指定された家だけではなかった。指定基準の毎時3マイクロシーベルト(妊婦や子どもがいる家庭では毎時2マイクロシーベルト)よりわずかに下回っていたからという理由で、「放射線量はほとんど変わらないのに指定を受けられなかった」という世帯が多くあった。
賠償の有無を巡り福島県内で分断が起こるなか、今回の南相馬の訴訟は住民が一致団結できた貴重な事例だと言える。二次提訴も予定しており、今後も原告の数は増える見込みだ。
しかし、国は早くも、こうした動きを牽制している。
「南相馬の地点解除訴訟(20ミリ基準撤回訴訟)支援の会準備会」の満田夏花さんによると、国(原子力災害現地対策本部)は、まだ訴状も見ないうちに、司法記者クラブにファックスを送りつけ、下記のような国としての見解をメディアにばらまいた。
「南相馬市の特定避難勧奨地点については、除染の結果、指定時と比して線量が大幅に低下し、国際的・科学的知見を踏まえて決定された年間20ミリシーベルトを十分に下回っている」「解除に当たっては、ていねいに住民の理解を得るべく、昨年10月と12月に計4回、住民説明会を行ったほか、戸別訪問、相談窓口の開設、線量測定および清掃などの取り組みを行っている」
満田さんは、「通常は、国は記者に聞かれて、『訴状をみないうちはコメントできない』などと言うのだが、この過剰な反応は何を表しているのだろうか」といぶかしがる。
■ 訴訟は福島だけのためではない
ママレボ出版局は、地点が解除された昨年12月28日の翌日に現地を訪れ、ホットスポットファインダーで測定を行った。その際には、玄関先でも毎時1.5マイクロシーベルトを超えるほどの高い数値が検出されたお宅もあった。
昨年末、解除されたばかりの勧奨地点のお宅の玄関先。 数値は毎時1.465マイクロシーベルトを示した。 |
「せめて(除染の目安となっている)毎時0.23マイクロシーベルトを下回ったら解除してもいいが、平均して毎時0.5~0.6マイクロシーベルトあるような放射線管理区域なみの場所に子どもたちを戻せない。子どもの首に縄をつけて、(放射線量が)高いところに行くなとは言えない」
と、住民が話してくれたのが印象的だった。
思い返せば、国が「年間20ミリシーベルト」を子どもにまで強いる決定を下した2011年4月から丸4年――。
あのときは、子の健康を案ずる福島県の親たちが、多数、文部科学省に駆けつけ撤回を迫ったが、一切聞き入れられなかった。やっと、この違法性を真正面から問う訴訟が始まると思うと感慨深い。
会見終了後、記者が前出の藤原保正さんに、「今回の訴訟で最も訴えたい点は何か?」と改めてうかがったところ、次のような答えが返ってきた。
「この訴訟は、自分たちのためだけに起こしたのではありません。全国のみなさんも、いつ福島県民と同じような目に遭わないとも限らない。今、20ミリシーベルトを撤回させておかないと、今後、どこかで原発事故が起きたときも同じ基準が適応されてしまいます。これでは、子や孫に健康被害が出たときに顔向けができません。だから、全国のみなさんに応援してほしい」
明日は我が身――。この訴訟を自分のこととして見守り、応援していきたい。
(ママレボ出版局 和田 秀子)
撤回の署名はこちら
(ママレボ出版局 和田 秀子)
撤回の署名はこちら
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