「放射線教育を考えるネットワーク」が6月17日、放射線にかんする副読本改訂についての要望を届けるために、
文科省で交渉を行いました。その内容をリポートします。
■下村大臣は、「記述の内容を見直す」と明言
文科省が作成している「放射線等に関する副読本(以下、副読本)」および、各学校に教員を派遣して行っている「出前授業」については、その内容がいかに原発事故後の現状にそぐわないか、以前このブログでもお伝えしたとおりです。
さすがに各方面から、「なぜ、原子力を推進する立場の『原子力文化振興財団』に制作を委託しているのか」「原発事故が起きたのに、なぜ事故にかんする記述がないのか」といった批判が出ていました。
この批判を受けてか、昨年度まで副読本の制作をしていた原子力の平和的利用を推進する部署(文科省研究開発局 開発企画課 立地地域対策室)から、今年度からは「初等中等教育局」に業務が移管されました。
先日、福島県を訪れた下村博文文部科学相も、福島県の佐藤雄平知事に対して次のように発言しています。
「(副読本は原子力政策の)『推進』のスタンスが多かったのではないか。記述を見直し、3・11以降のありようの中で教材を作りたい。きちんと福島の問題を学校教育現場で取り上げる教材を用意している」(2013年6月11日 福島民友ニュース)
「放射線教育を考えるネットワーク」が文科省交渉に参加したのは、このニュースが報じられた5日後だったわけですが、副読本の改訂を担当している専門官の平田容章氏(初等中等教育局教育課程課)の返答は、ひじょうにあいまいなものでした。
■放射能防御に役立つ内容にしてほしい
この日、交渉に参加した埼玉県の川根眞也さんは、「現在の副読本には、“放射線から子どもを防護する”というもっとも大切な視点が入っていない。チェルノブイリ級の事故が起きた日本で、たんに放射線の基礎知識だけを教えていても役に立たない。血税を投じて制作するのだから、少しでも子どもたちが被ばくせずにすむよう、防護の知識を盛り込むべき」と、主張しました。
そのうえで、「安全側に立った内容だけでなく、放射線のリスクを強く警告している文献も考慮したうえで、副読本に反映してほしい。原子力規制委員会設置法案の付帯決議14条にも、ICRP(国際放射線防護委員会)だけでなくECRR(放射線防護委員会)などの基準についても十分考慮し、施策に活かすよう謳われているのだから。」と要望しました。
これに対し専門官の平田氏は、「大臣の発言にもあったように、スタンスの見直しを図っている。しかし、差別を助長しないためにはバランスが大事。私には、科学的な見識がないので、これからさまざまな文献を勉強して判断したい。なにか参考になる論文があれば、教えてほしい」と発言。
川根氏からは、アレクセイ・ヤブロコフ氏らが記した『チェルノブイリ被害の全貌』(岩波書店)などが推薦されました。
また、「放射線教育を考えるネットワーク」の代表、青島正晴氏からも、「アナンド・グローバー氏の国連勧告も考慮して中身を考えてほしい」と要望が出ましたが、残念なことに担当官の平田氏は、この国連勧告の存在を知りませんでした。
■スケジュールも決まっていない
もうひとつ驚いたのは、すでに6月半ばだというのに、まだ改訂スケジュールが決まっていないということ。
平田氏は、「平成25年度の予算なので、遅くとも今年中には見本誌を各学校に配らないといけない」と話していましたが、現段階でもまだ、どのように改訂するのか、業者に依頼するのか、それとも文科省内で行うのか等、具体的なことは何も決まっていないとのことでした。
平成23年度の改訂スケジュールを見ると、すでに7月には制作をはじめていますから、年内に制作するとなると急ピッチで進めなければなりません。
交渉に参加した方の中からは、「本当に決まっていないのか? 私たちにだまって進めているのではないか?」との不信の声があがっていました。
さらに、「スケジュールが決まったら、教えてほしい」という要望に対して平田氏は、「こちらからみなさんに教えることはできない。また連絡してください」と返答。
代表の青島氏は、「知らないうちに制作が進んでいた、ということになっては困るので、まめに連絡をとっていくつもり」とのことです。
また、ママレボ編集部からも、これまでにお寄せいただいたアンケート結果を編集し、「ママたちからの要望」という形で、副読本についての意見をお渡ししてきました。
平成25年度の「放射線にかんする副読本改訂」については、概算要求で総額345,149,000円もの予算が付いています。私たちの要望をしっかり反映させてもらえるよう、引き続き注視していきたいと思います。
【平成25年度 文科省概算要求 放射線教育関連】
なお、この日 「放射線教育を考えるネットワーク」から提出されていた要望書に対する、文科省の答えは以下のとおりです。
要請事項
1.
「放射線に関する副読本」を改訂する、とのことですが、昨年配布したものと比して、改訂の趣旨と重点においたところはどこですか。
文科省回答 →大臣の発言にもあったように、福島で起きた事故のことは記載することになると思う。副読本を読んだ子どもたちが、福島で起きた事故を自分のこととして考えられるような内容にしたい。
要請事項 2.
作成の日程、プロセスを教えていただきたい。
文科省回答→ まだ決まっていないが、年内には見本誌を配れるようにしたい。
要請事項3.
現副読本を踏まえて改訂にあたって以下の点を考慮し作成することを要請します。
① 福島第一原発事故により、大量の放射性物質が放出され、福島県はもとより東日本全体にその汚染が広がったことを記述していただきたい。貴省が作成した放射線量等分布マップ等を活用していただきたい。それは、放射線の脅威が身近にあることを知らせ、実践的に考える意味で大切だと考えます。とくに日本の法律では一般の放射線被ばく線量の上限は年間1ミリシーベルトであること、0.6マイクロシーベルト以上は放射線管理区域であることなど、数値で定められたものはしっかりと記述し、現在それがどういう状況になっているのかを伝えるべきです。
② 放射線の健康への影響について具体的に記述していただきたい。現副読本が放射線の性質、測定方法、単位、有用性等については詳しく記述されていますが、放射線が染色体やDNAに害を与えること、等についての記述が全くありません。
③ 低線量被曝や内部被曝が健康に有害であることを記述していただきたい。現副読本が「100ミリシーベルト以下の放射線」についてがんなどの健康への影響はないと断定的に記述されています。しかし、ECRR(欧州放射線リスク委員会)やアメリカの国立がん研究所の発表でも低線量被曝や内部被曝によるがんなどの健康被害の報告が多数されており、事実と異なります。
④ 基準値以下の放射性物質であってもできるだけとらないようにすることを明記していただきたい。現副読本では『事故の時に身を守るには』で「放射性物質が決められた量より多く入ったりした水や食べ物をとらないように」となっており、基準値以下ならば安全という表記になっています。
⑤ 作成委員にアレクセイ・ヤブロコフ氏(ロシア科学アカデミー)やユーリ・バンダジェフスキー氏(元ゴメリ医科大学学長)、小出裕章氏(京都大学)など、チェルノブイリ事故を踏まえて、低線量被曝や内部被曝の危険性に詳しい研究者を入れていただきたい。
文科省回答→ バランスを配慮しながら検討したい。
要請事項4.
作成する「副読本」の使用についてどういう扱いになりますか。昨年までは、学校の希望を取り配布し、その使用については任意であるとの回答をいただいています。今回作成担当部署が、研究開発局開発企画課から初等中等局教育課程課となりました。道徳の「心のノート」は副教材として位置付けられ、「国定教科書」との批判もありますが、この「放射線に関する副読本」は使用任意の副読本と考えて良いですか。
文科省回答→ 副読本を使用するか否かは教育委員会の判断に委ねられる。つまり、昨年と同様の扱いということ。
要請事項5.
「教員等を対象とした放射線に関する研修等の実施」「放射線に関する理解を深化するための出前授業の実施」の具体的内容、予算の内訳について教えていただきたい
文科省回答 → 「教員等を対象とした放射線に関する研修等の実施」については、2,560万円を上限。「放射線に関する理解を深化するための出前授業の実施」については、2,520万円を上限とする。
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